クマ被害の抑制とクマから利益を得る知恵 アイデア広場 その1801

  クマによる人身被害の報道が、大きく報道されるようになりました。2022年以前のクマ類による人身被害は、全国で年間数十名から100名程度の範囲で推移していました。その被害が、2023年には被害者数が219人(うち死亡者数6人) となったのです。次の2024年に発生した人身被害者の数は、 85人(負傷者数82人、死亡者数3人) と減少しました。ところが、2025年には、ついに被害者数は、238人(うち死亡者数13)と過去に類例を見ないほどの被害件数になりました。人身被害だけでなく、クマによる農作物被害額も増えています。2017~2022年は、3意8000万円から4億6000万円の範囲で被害が推移していました。人身被害が急に増えた2023年の農作物被害額は、7億3800万円になりました。翌年の2024年には、人身被害が減少したと同じように、クマによる農作物被害額は、5億1903「円へ減少したのです。2025年の人身被害は過去最大となり,農業被害も2023年を超えることは確実視されていす。(2025年の被害については、公式の発表がされていないようです)なぜ、2023年と2025年に被害が急増したのでしょうか。実は、2023年と2025年は、東北地方では2000年度以降で最もブナの実なり(ドングリの実)が悪い大凶作でした。大凶作でクマたちは、食いだめをしなければならない,秋に深刻なエサ不足に陥ったのです。ブナは、豊作と凶作のサイクルを繰り返します。2024年は、東北地方ではブナが豊作でした。そのために、被害が少なかったという説明がされています。

 ドングリ類の凶作でエサを求めて歩き回った結果、多くのクマが山を下り、人里に出没するようになりました。過疎が進んだ人里で、エサを得られることを学習したクマが出現するようになりました。人里のエサに依存し、冬眠開始の遅れるクマも出現するようになります。凶作は、ツキノワグマに今までにない行動パターンを取るようにしました。2025年7月には、青森県むつ市の養魚場がクマに襲われ、一部のサーモンが食べられる被害が起きます。また、2025年11月1には新潟県小千谷町で、ニシキゴイが襲われるという事件も起きています。北海道のヒグマによる被害は、牧場の牛などに及んでいます。ツキノワグマやヒグマよる農業被害が、多様な作物に及ぶようになってきました。人間側の被害も多いのですが、人間の側からの応戦もクマには厳しいものになりました。一般にクマの捕獲は、一定の割合で行われてきました。たとえば、2008年度に捕獲されヒグマの355頭とツキガワグマ1137頭の合計1492頭でした。この数字が、過去18年間の平均的な捕獲数になります。でも、人身被害が最大になった2025年には、全国でヒグマが2037頭、ツキノワクマが1万2214頭捕獲されました。この合計1万4251頭は、統計を開始して以来最多であり、18年間で捕獲数が9倍以上になったのです。クマの心境としては、「河豚は食いたし命は惜しし」ということになるのかもしれません。

 クマを観察すると、いろいろな点で高度な行動を取ることが分かってきました。福島市でクマ騒動があった出来事で、部屋に入ったクマが窓のカギを開けて逃げ出したことが話題になりました。クマの行動は、単なる本能ではなく学習と記憶に基づいた行動だと考えられています。クマは、イヌと霊長類の間に位置する知能を有しているようです。記憶力、空間認知問題解決能力においては、霊長類に迫る知性を持つと言われる存在です。福島市に見られたように、クマの扉を開ける行動は、クマの非常に高い問題解決能力を示しています。クマが、数年後に同じ時、同じ場所を再訪するような事例が多く報告されています。果樹園、川のサケの遡上地点、登山道のゴミ捨て場など記憶を長期間保持する能力を持つとされています。ゴミ捨て場など、場所と季節を結びつけた記憶を長期問保持する能力を有しているのです。人間由来の食べ物の昧を覚えると、それを手に入れようとして、危険を冒しても人里に侵入してきます。さらに、手に入れようとして危険を冒して人里に侵入し、人を襲ったりする状況が2023年頃から顕著になってきたとも言えるようです。ひとたび、食べ物のある場所を覚えると、何度も同じ場所に現れるようになり、人を恐れることもなくなる現象が起こりつつあるのです。

 世界には、8種類のクマがいます。その2種類が、ヒグマは北海道とツキノワグは本州を中心に生息しています。ヒグマの祖先はサハリンを経由して 北海道に移動してきました。ツキノワグマの祖先は朝鮮半島から九州北部に移動し、本州、青森県の下北半島まで生息域を広げてきました。このクマたちは、ある意味、守られてきたとも言えます。ヒグマは、アイヌの文化を象徴する形で守られてきています。ツキノワグマも人里に迷い込めば、山に返す保護策を取られてきました。日本の場合、人里と山林をクマの生活圏を保証する形ですみ分けていました。野生動物と人間の共生を継続する場合、エサの確保を保証してやるという知見もあります。アメリカのインディアンが行っていました。彼らのブルーベリー畑の周囲には、ジューンベリーという種類のキイチゴが植えられています。これは、ブルーベリーを守るために、畑の周囲にジューンベリーを植えているのです。ジューンベリーはブルーベリーよりも商品価値は落ちます。でも、実りが早く、丈も高いのです。飛んでくる鳥としては、商品価値などは知らないし、腹がいっぱいになれば満足です。やってきた鳥たちは、先に熟すジューンベリーの方を食べます。熟すジューンベリーの方を食べる鳥を尻目に、人間はブルーベリーを収穫するという仕掛けになっていました。もちろん、クマへの対策を行っている町もあります。宮城県の川崎町は、「牛タン」の里といわれるほど牧畜が盛んです。牛の飼料であるデントコーンの畑が、ツキノワグマに荒らされて困っていたのです。この解決策として、「ツキノワグマのすみかを守る会」の人達は熊が「食べてもいい畑」を作ったのです。山際でお腹がいっぱいになったクマは、危険をおかしてまで里の畑に来ることはないと考えたわけです。クマが食べてもいい畑の活動は、もう10年も続いています。確かに、農作物被害も減り、駆除されるクマの数も減っているとのことです。

 ここまでは、クマが害獣として取り扱われてきました。でも、トリカブトの毒が薬に変身することがあります。害獣のクマには、人間に利益になることはないのでしょうか。その可能性を探ってみました。クマは、数か月間、飲み食いすることも、排糞排尿することもなく眠り続けることができます。眠り続けるにもかかわらず、筋肉や骨の衰えはほとんど見られないのです。人間の場合、1~2週間を寝たきりで食事を採らずにいれば、確実に筋力は低下します。筋力の低下だけなく、骨がもろくなりし、歩くもともできなくなります。クマの筋力などの維持能力の秘密が分かれば、人間の更なる能力開花の道が開けるかもしれません。その秘密の一端が、わずかに見え始めているようです。クマは冬眠とともに、糖代謝、脂肪代謝およびタンパク質代謝が大きく変化します。冬眠中のクマの心臓は40~50回/分から8~10回/分に低下します。同時に、代謝率は100%から20~50 %に低下していきます。この両方が抑制され、エネルギー消費も抑えられる省エネルギーモードになるのです。省エネモードのため、冬眠中の筋肉や骨の衰えが抑えられます。もう一つの知見は、冬眠中のクマは、溜まった尿の尿素を再利用してアミノ酸をつくっているのです。このアミノ酸をつくることに加え、タンパク質合成とタンパク質分解の両方が抑制されているために、冬眠中の筋肉や骨の衰えが抑えられ仕組みを持っています。このようなクマの仕組みを人間が備えれば、現在問題になっている高齢者の「フレイル」の解決になるかもしれません。

 余談になりますが、筋肉が分泌するホルモンは、「マイオカイン」と総称されています。これは、現在、30種以上が確認されているのです。マイオカインは、筋肉を動かすことで筋肉から分泌されます。筋肉は、体重の3~4割を占める大きな器官になります。今では、「筋肉は人体最大の内分泌器官」と言われるまでになっているのです。筋肉が分泌するホルモンの中には、認知症やガンを予防することに効果が期待できるものもあるのです。マイオカインには、認知症以外の病気を抑え込む効果もあることが明らかになってきています。もし、冬眠のように寝ていても、筋肉が衰えなければ、認知症を進行させないホルモンも分泌され、一定の健康が維持されることになるかもしれません。

 最後になりますが、「「骨折すると、寝たきりになりやすい」という状況があります。でも人間の場合、歩行を制限することは、歩くメリットの芽をつむことになります。「骨折」で安静臥床となると、筋力低下が一気に進行します。一日動かないで臥床していると、一週間で10~15%の筋力が低下するという学説もあります。この筋肉低下の学説を覆す仮説が、冬眠中の筋肉や骨の衰えが抑えられるというクマの仕組みということです。クマは冬眠から目覚めた後にもすぐに行動ができます。もし、人間もこのことが可能になれば、高齢者の骨折治療に新しい局面が生まれます。骨折したら安静臥床で十分に睡眠を取って、骨折が修復するまで休養します。それから、リハビリをする流れになります。十分に休養し、すぐに動ければ楽しい生活を送れることになるでしょう。

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