30年以上も前になりますが、毎年5月の中旬から下旬にかけて、尾瀬沼を訪れました。沼山峠の駐車場で、一夜を過ごすときの寒さが懐かしい思い出になります。木道から見る水芭蕉は華麗で、今年も見きたという高揚した気持になったものです。植物専門の友達に聞くと、木道付近の水芭蕉は、大きくなりすぎているということでした。尾瀬の大自然の中でも、環境汚染の富栄養化が進んでいるとのことです。尾瀬沼を見て、檜枝岐村に戻り、温泉に入り、ソバを食べて帰るのが年間行事の一つになっていました。家族からいつも言われていたことは、遭難に合わないようにということでした。話は飛びますが、日本のアウトドア市場は、1970年代に始まったとされています。この頃は、男性中心の活動で、一部の男性が山で楽しむ雰囲気でした。次のブームは、1980年代後半から1990年代前半になります。この1990年代は、いわゆる「山ガール」が野外活動を謳歌した時代でもあります。野外に親しんだ「山ガール」は、男性中心の野外用品よりオシャレな用品を求めるようになりました。野外活動に新たなビジネスチャンスをもたらしたわけです。さらに、山ガールが母親になりは、子ども達をキャンプに連れ出す時期が訪れます。団塊の世代からすると、もう昔のように尾瀬の散策を楽しむことは難しくなりました。そんな中でも、もう一度行ってみたいという気持ちがあります。今回は、行きたいけどいけない人たちが、どのようにしてその欲求を安全な方法で実現するのかを考えてみました。
最近、一部の人に注目されている「ウナギトラベル」という旅行会社があります。この旅行会社が旅行に連れて行くのは、「ぬいぐるみ」になります。お客さんから預かったぬいぐるみをカバン詰めて、国内外の観光地に行きます。観光地で、ぬいぐるみの記念写真を何枚も撮ります。この観光地でぬいぐるみの記念写真のために、お客さんはお金を払うのです。自分のぬいぐるみが、海外旅 行をしている写真を撮ってもらい、その写真をフェイスブックに載せるのです。忙しい人や病気で自ら旅行できない人には、観光地での写真を見るどけですごく満たされた気分になるようです。尾瀬の思い出を、このビズネスサービスで満たすことができるでしょうか。私個人としては、少々物足りないと感じます。私としては、沼山峠から尾瀬沼に行く上り下りの行程、さらに木道に沿った水芭蕉などを目の前に再現できることが一つの要求水準になります。技術の進歩は、この要求水準を満たすツールも実現しているようです。それは、ドローンになります。ウクライナ軍は、2025年6月1日にロシア空軍基地へ117機のドローンで攻撃しました。この作戦は、ロシアが保有する戦略爆撃機の3分の1破壊したと言われています。作戦では、大型トラックの荷台に攻撃ドローンを隠し、各地の空軍基地近くに配置しました。そこからの攻撃になります。もし、沼山峠にドローンを配置し、そこから登山道に沿って尾瀬沼まで、尾瀬沼に向かう登山者を追いかければ、思い出に近い記憶を体験できるかもしれません。自分の子どもや孫が、その尾瀬沼までのコースを歩く姿があれば、さらに臨場感をたかめるかもしれません。
登山で問題になるのは、遭難事故になります。もっとも、事故に遭おうと思って、山に登る人はいません。事故が起これば、本人がまず困ります。遭難者を救助する人達も困ります。日本一高い山は、富士山です。年間約20万人が登る富士山ですが、事故も多く起きているようです。最近は、外国人の方も多く登るようになり、この名峰での遭難事故も多くなっています。事故が起これば、本人がまず困り、そして家族も困ります。もちろん、遭難者を救助する人達も困ります。そんな中、富士山で面白い実験が行われました。この実験は8月17~18日と24~25日の2回、富士山の登山者向けに行われました。1日、6000人の方に、ビーコン(電波発信機)を貸し出し、リックなどに着けてもらうのです。ビーコンは縦横約3cmで登山用具などに付けてもらいます。山小屋や登山道沿いの50カ所に、電波を受信する受信機を設置します。登山者が受信機近くを通ると、近距無線で送受信された情報がサーバーに集まります。このような実験を、富士山の登山者を対象に行って5年目になります。この実験から、遭難事故を減少させるヒントが見えてきたのです。
このデータから、富士登山者についての有用で面白い結果がでてきました。情報をサーバーに集めると、登山者個々人のコースの通過時間を把握できました。登山者が、どこの地点に何人いるかがわかるわけです。発信器の成果もあり、登録者の登山移動状況が一目瞭然でわかる仕組みができたのです。時間の経過とともに、どこが混雑するかもなどの状況も把握できるようになりました。インターネットに登録すると、登山者本人や家族に現在地や移動経絡を知らせることもできる優れものでした。登山者の位置情報が予定通りと分かれば、家族の方が心配することもなくなります。意外だったのは、途中で登頂を諦めて引き返す人が30%以上もいたことでした。山の美しさにあこがれて、登ってみたものの、意外に厳しい山だったことを体験したのでしょう。体力を過信して、登ったのは良いが、高山病にかかった方も多かったということです。この登山情報は、自治体が救護体制を整えるのに役立つようです。実際、自分の症状を理解して、下山を選択した方は立派です。中には、来たからには頂上を目指したいと無理押しした方もいるかもしれません。山登りでは、これが最も危険な行動になります。ビーコンの流れを見ていれば、要注意者を把握できます。行動が遅滞し、動きが不規則になる方は、要注意です。ビーコンに音声機能が付いていれば、注意を喚起できます。設置場所に監視員が配置されていれば、そこからでも注意指導が可能になります。データを分析することにより、より安全な登山を支援できるツールの開発も視野に入るようです。
登山による事故や遭難は、7~8月には600人程度ですが、年間を通すと3000人程度の山の事故や遭難が起きています。そのたびに、救助隊員には2次災害の危険を冒しながら救助に赴いているわけです。この数を、少なくしたいと思うのは当然のことです。対策として、富士山の実験をより発展させたものにしていきます。ビーコンの配布や受信局の設置には、コストがかかります。このコストが、ネックになるわけです。このコスト問題を解決する方策を、再度深掘りしてみました。ビーコンは、スマホで代用できる可能性があります。50ヵ所の受信機の設置は、ウクライナの「クモの巣作戦」でドローンを飛ばしたような代用可能です。常時飛ばすのではなく、受信機を設置する場所に着陸させておけば良いのです。そこで、受信機を装着したドローンを定位置において設置場所を兼ねるわけです。個人用のスマホは、安上がりになります。受信機の設置も、ドローンで行えば、安上がりになります。5Gが実用化するようになれば、スマホや受信機の情報がサーバーに素早く集約されるようになります。
山の監視員は、登山者の位置情報から歩行の速度や地形の急峻に対応した登り方などを見て、体調を予測します。頻繁に休息を取るグループがあれば、疲労のためについて行けない人が出ていることが疑われます。通常より異常な歩き方や休息の取り方が頻繁になれば、ドローンのカメラで状況を把握することも可能になります。回復可能なら山登りを続けてもらい、体力的に無理ならば下山してもらうようなアドバイスを行います。アドバイスは、スマホを通して行うことも可能でしょう。希望を述べれば、富士山のような実験と実用化が進んで、100名山にも応用できるようにしていきたいものです。100名山を登山している人達の行動が、一目で分かるような仕組みができれば、遭難事故は減少するでしょう。インターネットで、登山者の行動が把握できる仕組みができれば、家族の方も安心です。捜索隊も、場所の特定が可能になります。場所の特定ができれば、2次遭難の危険も少なくなります。もっとも、登山者の意識や技能の向上が、最も安全な登山を確保する要素かもしれません。
最後は、ツールの開発は良いことですが、問題はツール開発の資金になります。 2024年度に国は、森林整備のための新税「森林環境税」を導入します。この森林環境税には、震災復興に伴う増税措置のうち2023年度末に期限切れとなる住民税を使うことになります。この新税導入は、2019年に決まりました。国はこの新税の課税に先立って、2019年度から臨時財源で譲与税を全自治体に支給しているのです。年間約600億円のお金が、全自治体に配られました。配られるお金は、各自治体が抱える私有人工林面積、林業就業者数、そして人口の3つの基準で決まります。でも、せっかく配られたお金が、使われないという問題も浮かび上がってきています。森林環境税が先行して配られた財源を巡っては、未活用額が4年間で450億円にもなっているのです。たとえば、渋谷区と台東区は、活用が2019~22年度の4年間にわたってほとんど使われていないのです。森林が少ないので、使う用途が見つからないからのようです。東京23区へ配られたお金は、2022年度が平均4615万円で、全市町村の平均より8割多い数字になっています。23区のある担当者は、「森林がなく、使い道に正直困る」と打ち明ける始末です。余っている国のお金を、山での遭難のない環境整備に使うことも、選択肢の1つになるかもしれません。
