AIとロボット導入で介護環境を充実させる アイデア広場 その1758

 人生100年の社会を迎えるにあたって、いろいろな課題も出てきています。その一つに介護の問題があります。介護を受ける要介護(要支援)認定者数が、2024年3月末時点で初めて 700万人を突破しました。この数字は、過去20年の間に、約300万人も増えたことを示しています。高齢化が進む日本では、介護の需要が急増していることがわかります。この増加により、介護給付によって国の財政負担が増えている情況がうまれています。そして、より大きな問題は介護職員の不足なのです。厚労省は、2026年度に必要な介護職員は約240万人と推定しています。介護関係職種の有効求人倍率は、2024年度に4.08倍と突出して高い情況になっています。2040年度には、約272万人に跳ね上がる見通しになります。今後は、介護関連の人手不足は一段と進む恐れがあるのです。その中でも、ケアマネジャーは介護業界全体で不足感が強くなります。蛇足になりますが、ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護保険制度において、要介護・要支援認定を受けた高齢者やその家族が、適切な介護サービスを利用できるように支援する専門職になります。その主な仕事内容は、ケアプランの作成、介護サービス事業者との調整、相談対応、認定調査など、利用者の自立を支援する総合的なマネジメントです。現在、ケアマネジャーごとにプランの作成手法にばらつきがあり、現場に不効率仕事をもたらしている要因になっています。この人手不足と非効率な仕事を解消するツールとして、AIの導入が進んでいます。今回は、この介護業界の人手不足と効率的仕事を考えてみました。

 人工知能(AI)を活用し、介護に関する人手不足問題を解決する中小企業がります。チャーム・ケア・コーポレーションは、関西中心に介護付き有料老人ホームを運営しています。このコーポレーションは、100以上の介護付き有料老人ホームを運営しています。ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護記録や睡眠データ,家族、医師へのヒアリングをもとにケアプランを策定します。従来、ケアマネジャーはこのケアプランを手作業で策定していました。介護支援計画の作成や事務処理にかかる作業は、これまで膨大な人手が必要でした。そこで、入所者の介護スケジュールの原案を生成AIが作成するシステムを試験導入したのです。新システムでは、AIが作成した原案をケアマネジャーが確認や修正を担うことになります。1人あたり最大4時間ほど要していたプラン作成は、2時間程度まで短縮しました。人手が極端に足りない業界だからこそ、AIを賢く導入し現場サービスの質を高める工夫が求められるようです。

 介護業界より歴史のある医療の分野では、AIが使われはじめています。まず、手始めとして、診察の第1段階である問診で使われ始めました。生活習慣などを聞き取って、診断の手掛かりを得るプロセスで「AI問診」の導入が広がっています。今までは、この問診をアンケート用紙で行う病院が多かったようです。でもAIは、アンケート1枚といった既存の問診票では把握できない詳しい症状や背景を深く探り出すようです。Ubie(ユビー、東京・中央)のAI問診は、患者の入力内容に応じて質問を次々と変えて、病状を探っていきます。患者から症状や既往歴、服薬歴、生活習慣などを聞き取って診断の手掛かりを得ています。Ubie は、医療スタートアップになります。この企業は、5万本以上の医学論文を基礎に症状と病気の関連性を解析するアルゴリズムを構築しました。このアルゴリズムで、患者が診察室に入ったときには医師の手元に充実した情報が提供される仕組みを作り出しました。問診の次に行われる検査の領域では、以前からAIが浸透していました。レントゲンや内視鏡の画像、あるいは心電図の波形をAIに解析させることなどがあります。心電図の波形をAIに解析させて、病気をいち早く発見する技術が実用化されています。問診と検査の結果がそろえば病名を診断し、治療法の選択へと進むことになります。この治療法の選択へと進む過程でも、AIが精度を高めています。このような医療の手法を介護業界(特にケアマネジャー)が利用できれば、人手不足の軽減や負担の軽減に貢献するようになります。

 現在のところ、介護現場には介護に関する仕事が数多くあります。そんな中で、上手にAIを使っている介護現場あるようです。あおぞらケアグループは、介護付き有料老人ホームや訪問介護事業などを手掛けています。この施設には、約800人の利用者がいます。この利用者ごとに介護器具や服薬指進など、最大60種及ぶ異なる書類をファックスで受け取ります。介護施設での負担が重い作業の一つは、ファックスで届く利用者ごとの書類の整理になります。あおぞらケアのある施設では、これまで月1万枚程度の書類をファクスで受信しました。このファックスを介護職員が書類を手作業で仕分けするのに、月約190時間かかっていたのです。この時間を要介護の方への支援に回せば、サービスの質は向上します。あおぞらケアは、2025年11月、AIで支援するケアチャットと資本、業務提携しました。ケアチャット(大阪市)は、介護業界をAIで支援する企業になります。システムを導入した結果、事務処理を約9割削減しました。AI導入後、現場の残業はほとんどなくなったそうです。介護人材の不足を防ぐためにも、やりがいと経済的豊かさの両立が欠かせないことはいうまでもないことです。

 要介護者の方は、動かない人形ではありません。自分できることは、自分の力でやりたいという気持ちを持っています。そんな気持ちを成就させるために、ロボットを導入する施設もあります。精密部品メーカーのサンコール(京都市)は、タブレットを活用し、歩行に障害を抱える人向けに学習支援ロボットを開発しました。これは、足に装着するロボットが人の歩行を感知し、最適な足の動かし方に導くよう設計したものです。この製品が、介護施設や病院へ納入されるようになりました。歩行に障害を抱える人が、リハビリテーションなどで使っています。人の歩行を感知し、タブレットで事前に設定した最適な足の動かし方に導くように設計してあります。さらに、個人により適合するようA1の活用を視野に入れています。この企業は、遠隔操作型のロボットも試作しています。理学療法士が離れたところからロボットを設定し、歩行を支援できる環境整備を目指しています。理学療法士の数は不足しており、全ての介護施設に派遣することが難しい状況が続いています。そこで、理学療法士が離れたところから、標準的な介護職員が歩行を支援できるリハビリ環境の構築を考えているようです。介護施設でリハビリにつきそう理学療法士らの専門人材が、地方に少ない事情を改善する狙いになります。

 余談になりますが、介護の仕事は、要介護者への細心の注意を払う頭脳労働と同時に、筋肉労働という要素が付きまといます。ケアで注意を払うところは、車椅子からベッドへ、そして車椅子から便座への移動などになります。介護の中で多い事故などは、移動の間の転倒になります。この時に、足の骨を折ったりしているのです。これが、人手不足を招く最大の原因ともいわれています。オーストラリアなどでは、法律で看護師や介護士が重いものを持たない規制があります。この規制があるために、介護士が働きやすい器具の開発が進んでいます。これらの国では、介護士の労働環境が非常によく整っています。もちろん日本でも、介護士の負担を軽減するために、ロボットスーツなど開発が進んでいます。でも残念なことですが、ここにも日本の遅れがあります。外国の場合、介護士が重いものを持たないために、彼らの作業状況を分析し、その課題解決を提示しながら様々な器具の開発を進めてきました。器具の開発が、現場の要求に応じて進められたのです。日本の場合、現場が介護ロボットを要求して、開発を進めたわけではないのです。ロボットがあるから、介護現場で使ってはどうかというスタンスでした。日本の場合、ロボットの機能はもちろん、介護士の使いやすさ、そしてコスト面の配慮などに現場と円滑さが欠ける面もあったようです。日本の介護現場の厳しい状況が、ロボットの改善やAIの導入により、急速に向上している点にも期待が寄せられています。

 最後になりますが、介護の現場では、介護の事務と異なり、AIやロボットが浸透するはなお時間がかかるとの見方もあります。病気の場合、予兆やその進行状況を指標化できる健康データをデジタルバイオマーカーと呼びます。スマートフォンやウェアラブル端末の普及に伴い、この健康データを手軽に取得できるようになりました。皮膚に流れる微弱な電流の変化を検知して、心電図を24時間体制で測定する仕組みも開発されています。心電図を24時間体制で測定し、その結果はクラウド上に記録していくこともできます。クラウトに蓄積された呼吸数や心拍などを分析し、異常があればシステムを通じて、該当の個人に知らせることもできます。実は、これと類似したものが介護の現場にも導入されています。チャーム・ケアは、2024年に携帯型エコーを全施設で導入しました。これは、AIがエコー画像を深層学習し、ぼうこうの大きさを計測して、尿のたまり具合を判定します。また、AIがエコー画像で直腸での便の位置を知らせて予期せぬ排せつを防ぐ役割を果たします。でも、「エコーは医療従事者が使う」との意識が強く、現場での普及が思ったように進みません。携帯型エコーの導入から年半がたっても、使用率は6割弱にとどまっています。現場の抵抗感(意識)を軽滅し、介護者も要介護者も過ごしやすい環境を作り出すことが望まれています。AIやロボットを積極的に導入し、人手不足の解消と業務の効率化を同時に解決していきたいものです。

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