AIの及ばない分野で活躍するブルーカラーの知恵  アイデア広場 その1791

 日本は、大学を卒業すると多くがホワイトカラーとして会社に勤めることを希望します。彼らは、ブルーカラーと言われる人たちより、優雅な生活ができると信じてきたきらいがあります。でも、日本の手本される米国では、違う流れが生じているようです。米国では、ブルーカラーが引っ張りだこという状況も生まれています。エレベーターとエスカレーターの設置や修理工などの職業の学歴は、高校卒が普通になります。米国労働省の統計では、エレベーターなどのブルーカラーの仕事で、年間所得は中間値で10万6580ドルになります。一方、理工系の学部でコンピューターサイエンスを専攻した卒業生には厳しい現実が待ち構えています。コンピューターの卒業生には、コンピューターのコード作成をAIが担うために、仕事が全然ないのです。今年6月に卒業したある大学生は、2000社に履歴書を送りました。でも、就職先が見つかっていない現実がありました。高額の授業料を支払ってやっと卒業した大学生が、職にあぶれているのです。興味深いのは、トランプ政権が、ブルーカラー養成を支援していることです。トランプ政権は、ハーバード大学など有名私立大学への助成金をカットしようとしていました。政府が、奨学金を2026~27年度から職業訓練などの短期資格取得プログラムも対象にしています。今回は、AIがホワイトカーの仕事を奪い、ブルーカラーを目指す人々の情況を概観してみました。

 日本のある調査会社が、現在ブルーカラー職に従事している人を対象にアンケート調査をしました。その調査では、製造業や建設業、物流業で働く人を中心に724人から有効回答を得ました。回答してくれた人の最終学歴は、大学卒が最多で39.4%、高校卒37.3、専門学校卒が15.1%になります。現在働いている職場につく前は、どのような職種についているかの質問には、興味深い回答もありました。最も多かったのは「他の現場職から転職(ブルーカラー)」で45.2%を占めました。これはある程度、理解できる数字になります。次の多かったのが、ホワイトカラー職から建設業や製造業の現場などの転入のケースが20.4%もあったことです。米国などでは、AIがホワイトカラーの職種に進出し、大学卒の若手の仕事を奪っています。このことを意図して、アンケートでは「今の仕事が将来AIに代替される可能性を尋ねる」項目がありました。その回答は、「代替されるとは思わない」が35.2%でした。そして、「可能性がある」と回答した方29%でした。日本でも、若年層では、AIに仕事を代替されると不安を転職に踏み切った働き手も、若干いることが分かりました。もっとも、現在の時点では少数派ですが、米国や中国、シンガポールなどの状況を見ていると、AIがホワイトカラーの職種浸食してくる状況を肌で感じ始めているのかもしれません。生成AIの普及が、働き手のキャリア選択に影響を与える可能性は、これからも増えてくるようです。

 米国のお話しになりますが、AIが米国のホワイトカラー労働者の半分を置き換えることになるだろうという予測が、現実味を帯びています。AIにはできない技術者を、「エッセンシャルワーカー」と呼びます。エッセンシャルワーカーのような役割が、現在米国では若者に求められています。米建設業協会によると、2026年は建設業界で49万9000人の新規労働者を必要とするとのことです。建築の一部である空調整備の仕事は、床下に潜り込んだりと過酷なうえに細かな手作業を伴います。このような作業のスキルを得るために、職業訓練学校の入学者が増えています。「過去1年間に入学者が20%増加した」と、テキサス州の職業訓練学校の学長が話しています。この職業訓練学校では、自動車機械工、溶接工、配管工、冷暖房空調整備技師などを養成する過程を設けています。約3000ドルの授業料と寮費などを加えても、年間費用は9000ドルになります。この年間費用の9000ドルは、米国の四年制私立大学の10分の1ほどになります。職業訓練学校は、2年で修了します。職業訓練学校の卒業生を採用したいという会社は、引きも切らないようです。卒業を待つのではなく、会社が自前で入学させ、卒業後に社員にするケースも増えています。あるホームセンター大手は、高校生などを対象に卒業後、実地訓練を無償で実施をしています。実地訓練を無償での実施は、2018年の開始以降、すでに6万人が訓練を受けたということです。人気があり就職に困らないエッセンシャルワーカーに対して、就職のできないホワイトカラーのスキルを磨いた大学卒業生という構図が浮き上がってきました。

 日本の人手不足は、ホワイトカラーにおいてもブルーカラーにおいても深刻です。特に、ブルーカラーは、深刻になります。総務省によると、建設業で技能者は2024年に303万人と過去10年で12%減少しました。3月の有効求人倍率は、とび職や鉄筋作業従事者など「建設躯体(くたい)工事従事者が 7.35倍、「土木作業従事者」が5.96倍、「自動車運転従事者」が2.51倍になります。有効求人倍率の全体平均は1.10倍ですから、いかにブルーカラーの人材が求められているかが分かります。高齢化や人口減に伴いブルーカラーは、今後も人手不足が進むとみられています。先進国の暗い労働市場を少しだけ明るくする光が、やはりAIやフィジカルロボット(ドローン)になるようです。ゼネコン(総合建設業)は、道路建設で、法面の工事も行います。法面の斜面工事を行う場合、足場の構築や材料の供給などは作業員が行うことが一般的でした。この場合でも、「法面(のりめん)工」と呼ぶ斜面工事に従事する作業員の不足が進んでいるのです。この課題を解決するために、ドローンの導入が進められています。土木工事をドローンで行うのは珍しいことですが、今後この珍しい作業が増えてくることも確実なようです。

 高松コンストラクションの子会社で斜面工事大手の東興ジオテック(東京・中央)は、災害現場などで斜面の崩落を防ぐ工事を無人で行う工法を確立しました。ドローンで建設機械を操作し、人手不足に対応する動きが実現しつつあるのです。この企業は、設楽ダム(愛知県設楽町)の建設に伴う整備中の道路の強化にドローンを使用しています。ドローンを使って、遠隔地から斜面緑化工事を進めているのです。一般的な斜面工事では、斜面の上からロープを垂らしホースを持った作業員が作業をします。ドローン方式は、ロープの設置や撤去、作業員がロープを伝って上り下りする手間を減らせる利点があります。ある意味で、画期的な工法になります。法面の強化には、岩肌の露出よりも斜面の緑化が有効な工法になります。ドローンが、種子や肥料、定着材を混ぜた緑化材料を道路の斜面へ均一に吹き付けていきます。地上では、ドローンを操縦する作業員は手元のモニター画面を見ながら作業の進捗を確認する。作業のスピードや品質は有人作業と同等という評価をえています。ホワイトカラーが、AIの進出により職を追われています。現在はエデンの園であるブルーカラーの職場も、いずれはアダムとイブのように楽園を追われることになるのでしょうか。

 余談になりますが、AIの進出により、米国の若者の失業が増える状況にあります。その対策として、ブルーカラーへの分野に進む若者も増えています。配管工やエレベーター技師は、高賃金のブルーカラーになれるという現象があります。でも、よく考えると、ホワイトカラーが職を失うなかで、ブルーカラーの給与だけが上がり続けることはないと唱える人たちもいます。チップも弾む気前のよい顧客があって、初めてブルーカーの高所得が保障されます。高い料金でも黙って支払う顧客があって、初めてブルーカラーの高所得が生まれるというのです。高賃金のブルーカラーに若者が殺到すれば、賃金は低下に向かう可能性が当たり前のように出てきます。新しい技術が生まれた場合、そのときの経済は成長します。そして、成長に付随して新たな雇用が生み出される過程には、時間差があります。ブルーカラーの高所得は、その時間差の中の一過程と捉える人たちもいます。AIによって新たな雇用が生まれるまでは、「混乱」が生じうると考える人たちもいます。「現状だけを捉えて、進むべき道を選んで良いのか?」、そんな命題が出てきたようです。

 最後になりますが、ウォール街の金融機関を顧客に長年法務サービスを手掛けてきた腕利き弁護士の方がいます。この弁護士は、顧客には1時間につき700ドルから1000ルの手数料を受け取ってきました。この弁護士が住むマンハッタンの自宅アパートで、天井や壁に取り付けたオーディオシステムが故障したのです。修理を頼むと、音響装置の修理技師がポルシェに乗ってやって来たそうです。オーディオシステムが故障して、修理に来た技術者は数千ドルの修理代を請求しました。修理技師は、ハンプトンに別荘を構えていました。ここは、グアイランドの高級避暑地になります。ハンプトンに別荘を構える音響装置の修理技師の方が、腕利き弁護士よりも良い生活をしているのです。また、水道管に水漏れがあったとき、2時間の作業で800ドル(約12万円)を請求されました。ブルーカラーの配管工は、今や医者よりも収入が高い収入を得ているのです。技能を習得し経験を積んだ配管工や自動車整備士などのスキルは、現在の時点でAIには代替できません。これからのブルーカラー志望者は、AIの特徴や能力を深く理解し、その能力の及ばない分野で力を発揮することになるのかもしれません。

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