人口減少化における賢い医療の仕組み アイデア広場 その1806

 日本の人口減少は、厳しいものがあります。都道府県別で人口が増えたのは、東京と沖縄の2都県のみで、他の45道府県が減少しています。首都圏の千葉県と埼玉県は1920年の調査開始以来、初めて減少しました。都道府県庁の所在地では、47うち仙台や福岡を除く40市が減少しています。地方の政令市などは、多くの若者や働き手を集め、地方の経済・文化の振興を担ってきました。その推進役を担ってきた政令市や県庁所在地の人口減が、明らかになりつつあるのです。市町村の視点から見ていくと、全国の1719自治体のうち増加した市町村161市町村にとどまりました。9割の市町村が、人口を減少させているのです。さらに、ミクロの視点から世帯を見ていくと、1世帯あたりの人数は2.15人で2020年の2.26人を下回っています。都道府県別では東京の1.88人が最も少なく、最多は山形の2.49人でした。東京は人口が多い反面、高齢者の単身世帯の増加していることが分かる数字になります。1974年に、厚生省の諮問機関である人口問題審議会は、「人口白書」で2010年に日本の人口がピークを迎えると公表しました。そして人口白書の予想した通り、2010年に日本の人口がピークを迎え、その後は減少を続けています。今回は、この人口減少が、医療にどのような影響を及ぼすのかを考えてみました。

 人口の減少で医療機関が撤退してしまった地域では、人々の健康な暮らしを維持することが難しくなります。現在は、医師不足の解消に各市町村がその対応に追われている実情があります。今までは、人口が多く、その結果として患者が多い状況がありました。患者が多いために、医師不足が起きていました。困ったことに患者が多いときには、医者の育成が間に合わずに「医師不足」が生じることもありました。また、医師の地域偏在や診療科偏在という状況も生まれていました。これらの課題を解決するために、医療現場に従事する医師を養成することを推進してきました。でも、これらの医師不足や偏在を、医師養成数の拡大のみで解決しようとすることには無理があることも分かり始めました。2025年から2040年にかけて、75歳以上人口の減少は14府県になります。また、2025年から2040年にかけて21県で65歳以上人口が減ります。現在のペースでお医者さん増えた頃には、人口減少で患者も減り、「医師過剰」という現象になるのです。

 日本の総人口の減少とともに、患者数が滅っていきます。この患者不足は、地方の市町村ほど早く訪れます。人口減少スピードが速い地方ほど、一般患者の減少も速く、医療機関の経営収益が悪化する状況が生まれます。医療機関を経営していくには、一定規模の周辺人口が必要です。一般診療所は。市町村の人口規模が1800人、病院は1万7500人を下回ると存続が困難になると言われています。収入減少が続いて医療機関の経営が厳しくなれば、医療スタッフの給与水準も抑制されることになります。また、別の面の心配も出てきます。患者不足が深刻化すれば、臨床機会が減って医師としての技能向上が図りづらくなります。地方に、腕の良いお医者さんが少なくなるわけです。地方医師が患者さん不足で悩んでいる一方で、大都市圏では、医師不足が続いています。大都市圏の医療機関から、好条件で誘われる医師も出てきます。医師不足が続いている大都市圏の医療機関では、地方の医師や看護師の引き抜きが起きつつあります。地方の医師には、報酬が増え、スキルアップのための機会が確保できるという誘因が働きます。でも、タイムラグで東京圏の人口減少、患者減少という流れが生ずることが予測されます。その時、日本の優秀なお医者さんは、成長の続く東南アジアなどに引きに枯れていくかもしれません。

 人口の減少や流出に拍車がかかると、診療科の偏在も加速していきます。高齢者の人口は増加しながら、全体として人口が減っていくと社会においては、疾病別に診療ニーズの拡大や縮小が起きます。団塊の世代の高齢者がかかりやすい病気の診療科は、当面ニーズが高まります。「患者不足」は、すべての診療科で起きるわけではありません。癌、虚血性心疾患、脳梗塞は、入院患者数の増加ほどは急性期治療の件数は増加しません。一方で、大腿骨骨折や変形性膝関節症は、入院患者数や手術件数は大幅な増加が見込まれています。たとえば、「膝の痛み」を伴う病気は、国民病ともいわれています。日本国内では、70代の男性の5割、女性の7割にみられる病状になります。膝の痛みを引き起こす代表的な病気には、「変形性膝関節症」などがあります。この変形性膝関節症の患者数は、痛みを伴わない人を含めると、約3000万人と推定されています。この数字は、予備軍を含めて推定約1800万人の糖尿病よりはるかに多い人数になります。「変形擬膝関節症」は、肥満で膝関節の軟骨がすり減ることで多く起こります。加齢が進むにつれて、だれでもがなりやすい病状になります。診療科の偏在は、現実を無視して医師の養成数だけを増やし続けると、需給バラスは大きく崩れることのヒントになります。

 医師不足を、デジタル技術で補おうとする試みもあります。インドは、オンライン医療が進んでいる国なります。この国では、医師や病院が圧倒的に不足しています。その不足を補うように、スタートアップの企業がAIを使った診療システムを開発したのです。利用者は、「喉が痛い」「熱がある」「おなかが痛い」など体調や症状などを選びます。病状を記入する段階から、人工知能(A I) は利用者の症状から病気を推定していきます。さらに進んでいることは、医師を指定できることです。いろいろな症状に対応できる医師の一覧から、患者は診断してもらう医師を選びます。その医師の一覧から、診断してもらう医師を選び、電話やビデオチャットで症状を詳しく伝えていくことになります。AIが専門医を選定し、選ばれた医師が最終的な病気の判断をします。たとえば、首都デリーの患者が、1000km以上離れた産業都市ムンバイのお医者さんを指定することもできるのです。AIの活用で、医師が診る患者数は飛躍的に多くすることができています。もちろん、診療結果が出れば、薬も処方されます。インドと同じようなインドネシアのオンライン医療では、アプリによる診療価格が2万5000ルピア(約220円)からで、医師が処方した薬は最短15分以内に届くサービスが常時行われています。

 余談ですが、言語モデル生成AIから、自分が望む出力(答え)を得るためには、適切な「プロンプト」を提示ことが必要です。人間が入力する指示文は、「プロンプト」と呼ばれています。同じ回答を要求する場合でも、プロンプトを工夫するだけで出力がまったく違ってくるのです。たとえば、言語モデル生成AIに、文章で「こんな不安の答えを生成してほしい」と指示すると、指示の希望通りの答えを生成します。もっとも、この答えには間違いも含まれることもあります。言語モデル生成AIのデータに、間違いが含まれているからです。でも。このデータが正しければ、間違った答えは人間の町がより少なくなります。実は、医学においては、正しいデータがあるのです。日本では、1990年代以降、病気ごとに最適な検査や治療法をまとめた診療ガイドラインが公開さるようになりました。最適な検査や治療法をまとめた診療ガイドラインが各学会によって作成、公開されてきたのです。このことが、日本の医療水準を高めている要因になります。さらに、医師が経験や知識を増やし、これらが多い医師が名医と呼ばれる傾向がありました。診療ガイドラインは、「医療者の教科書」になっています。AIはこれらのガイドラインを学び、人間の医師が一生かけても経験できない量の症例を学習して分析できるようになりました。AIによる診断は、膨大な症例が土台となっています。AI医療では、すべての患者に「名医」の診断を提供できる可能性が出てきているようです。この正しいデータを備えた生成AIとのオンライン医療が可能になれば、医師不足や患者不足の弊害が解消するかもしれません。

 最後になりますが、釜山は、韓国第2の都市で、ビーチ沿いには高級木ホテルや高層マンションが立ち並ぶ国際観光都市になります。釜山市の人口は1990年代の380万人がピークで現在は330万人に減りました。本社を置く有力企業も少なく、地元の学生も就職ではソウルに多く向うことになりました。 韓国政府は2024年、釜山市を「消滅の危険」がある地域に指定したのです。韓国は、国全体でも合計特殊出生率人の女性が生涯産む子どもの数が世界最低水準の国です。釜山市の行政幹部も、人口減で消滅危機にひんしており、「現実的に人口を増やすことは難しいと考えています。釜山市の人口政策チーム幹部は、人口減を前提に都市計画進めています。そのモデル事業が、「15分都市釜山」です。これは釜山市を約60の圏域に分け、生活に必要な機能を徒歩などで15分以内に収める事業です。子育てや高齢者支援などサービスごとに、中核拠点を設け機能を集約します。閉鎖した保育園などは、高齢者など向けの弁当製造や配送拠点に変えています。「15分都市」にオンライン医療が整備されれば、住みやすい都市になるかもしれません。薬は診断が終われば、15分で届けられます。もちろん、食事の配達も、15分で完了します。蛇足になりますが、人間の運動欲求は、15分程度行うと充足されるという研究成果もあるようです。

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