物価が上がり続けると、節約を心掛ける人たちが増えてきます。そこに、石油の動脈でもあるホルムズ海峡に異変が生じれば、さらなる物価上昇の要因が増えます。当然、人々は危機に備えて、節約志向が高まります。買いものも、必要な物に絞り、ぜいたく品などへの支出を減らすことになります。消費者は、まず買うものを減らすことを意識するようになります。一方、生産者の側から見れば、節約は売り上げを減少させる要因になります。企業としては、節約をする消費者にいかに商品を購入してもらうかという販売戦略を構築することになります。発想として浮かび上がります。コロナ禍による外出自粛を受け、飲料各社の手がける自販機ビジネスは苦戦していました。この苦戦を乗り切ろうとして、コカ・コーラが「次の一手」を繰り出しました。このコカ・コーラは、消費者のマイボトルに対応した自動販売機の導入を計画しています。マイボトルに対応した自動販売機を導入で、苦戦を乗り切ろうとしたことがありました。でも、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とのことわざもあるように、コロナ禍が過ぎると企業の戦略にも変化が起きます。今回は、環境の変化に対する消費者の節約志向とその節約志向に対する企業の対応策について考えてみました。
ロードバイクは、2010年代から人気が広がりました。コロナ禍でも、感染リスクの低いスポーツとして需要が急増したのです。密集する繁華街への外出は、多くの人が避ける風潮になっていました。感染リスクの低さを前面に押し出し、売り手市場を形成していきました。追い風になる新型コロナウイルス禍の中で、需要急増に伴い大幅な値上げが続いていました。さらに、ロードバイクの愛好家を対象に、業界は高付加価値・高価格帯の商品の販売に力を注いできた側面も値上げに貢献したようです。コロナが下火になった後も、ロードバイクは高性能化や円安、生産コスト上昇を理由とした値上げが相次ぎました。ロードバイクは、4割近く値上がりした車種もありました。でも、値上げの流れに逆風が吹いてきました。ロードバイクの愛好家の数は、限られています。限られた需要に、供給が過剰になったのです。米国の自転車大手トレックは、ロードバイクを手掛けています。このトレックは、一部主力モデルについて日本国内での定価を10~14%値下げ始めました。さらに、台湾大手メリダが1割前後、イタリアの名門ピナレロやウィリエールも約2割の値下げています。スポーツ自転車に値下げの動きが広がり、高級自転車の値下げが相次ぐようになりました。自転車業界が、市場全体の購買力やニーズを見誤ったようです。このブームが去り、販売店の廃業も増えている情況が生まれました。
一方、苦境をチャンスととらえる企業も現れています。値下げに転じたとはいえ、スポーツ自転車の価格は、コロナ禍前に比べると大幅に高くなっています。愛好家の中には、中古市場や他のスポーツに流れている情況も生まれています。スポーツ自転車のブームが、以前より下火になり、愛好家により格安な自転車を求める流れが生まれているようです。ここに進出している企業が、中国の新興企業です。中国企業は、米国やイタリアの大手と同等以上の性能とうたう製品を安価で提供する技術を蓄積してきました。中国企業は、大手ブランドのOEM (相手先ブランドによる生産)などで培った技術を生かしています。愛好家の間では、中国などの新興企業が手がける製品が存在感を増しているのです。同じような性能の自転車なら、ブランドよりコストを選択する愛好家もいるわけです。もちろん、日本の企業も、負けてはいません。ワイズロード・イエローハットは、スポーツ自転車販売大手になります。この企業は、カーボン製ホイールやクランクを自社開発しています。この開発を通じて、値下げを可能にしています。イエローハットは、通常は定価15万~20万円程度の性能を、11万円で実現しています。ブームが下火になる中で、売り上げを伸ばす販売店などのしたたかな姿が浮かび上がっています。
ブームの下火になっている自転車業界で、面白いことが起きています。その火付け役は、ドン・キホーテになります。節約志向の中で、消費者の財布のひも緩める工夫をしているのです。蛇足になりますが、アイデア作る手法に足し算と引き算のものがあります。たとえば、足し算手法ではロードバイクでスト、高級なライトやサドルを追加するなどになります。走行性能や快適性など機能を追い求めていけば、装備が多くなり価格が高くなってしまいます。一方、引き算手法では、鍵をつけない、荷台はつけない、ライトはつけないなど走る機能だけに特化している手法になります。「その装備、本当に必要ですか?」という疑問から、装備をそぎ落として、消費者のニーズにあった値段の自転車を開発したのです。もっとも開発と言っても、新機能などは一切ない自転車になります。この自転車の商品名は、「Option O :オプションゼロ」ということになりました。一般的なママチャリが2万円程度なのに対し、税別1万円の販売になったそうです。この自転車は、すでに販売しているママチャリ「エルパソ」(税別1万7980円)をベースにしたものです。もちろん、4月から厳しくなる道路交通法の説明を兼ねて、ドン・キホーテでは店員が口頭で別売りのライトを購入する必要を説明することを行っています。このお店では、価格を抑えた家電や食品のPBを充実させ、消費者のニーズを取り込む工夫に余念がないようです。
見方を変えれば、デメリットの中にいくつかのメリットを見出すことができます。たとえば、今のマンションは、高い階のほうが価値は高いことになっています。高層マンションは、階が高ければ高いほど家賃が高くなります。でも、災害の多い日本で、いざ地震か何かでエレベーターが止まったり水道が使えなったりしたらどうなるでしょうか。9階に住んでいたりすると、人が1日に必要な水を運ぶだけでも、大変な重労働になります。地震などになると、価値が低いとされてきた低い階の人のほうが安心して暮らせる状況が生まれます。安心な仕事、保証された仕事、確実な仕事など、そんな仕事などはありません。どんなに頑張って真面目に働いても、今いる会社が倒産しない保証などはないのです。でも、普通の人は、リスクを恐れ、自分のライフスタイルを崩さない程度に働ける会社を選択してしまいます。会社に依存せずに独立し、人生の長い時間を誰にも頼らず仕事していく生き方も、これからの選択肢になるかもしれません。大きな農業が、理想だった時もありました。でも、国際紛争や気候変動で、大きな農業は苦戦を強いられています。今回のホルムズ海峡の封鎖は、農業に必要な燃料や肥料の高騰を招くリスクがあります。そんななか、健康志向、幸せ志向、環境保護などの流れが、小さな農業の支援者になってきました。節約志向は、必要な物に絞り、不必要なものをできるだけ避ける生活パターンかもしれません。「足るを知る者は富む」という先人の知恵を、再度再考したいものです。
余談になりますが、米国のイラン攻撃で、石油危機が叫ばれるようになってきました。この影響を強く受けている国々は、アジア諸国になるようです。すでに、石油の使用を制限する国も現れているようです。日本も、そろそろこの非常時に備える時期にきているのかもしれません。その備えの一つは、自動車の使用を抑制することになります。その代用として、自転車の利用が浮かび上がります。コロナ禍のころ、インドネシアなどでも自転車通勤が増え、交通渋滞の軽減に役立っているとのことでした。もちろん、日本の自転車通勤も増えていました。電車通勤で生じる3密を避ける行動として、会社から奨励される場合もあるようです。ここに来て、自転車通勤の社員の生産性が上がっているのではないかという声が、上がるようになりました。ある意味で、当然のことかもしれません。3密による感染の不安から解放された自転車通勤は、ポジティブな行動を取ることができます。さらに、自転車運動という活動は、交換神経を活発にします。交感神経が活発な状態から、すぐに仕事に移行できるわけです。仕事の効率が上がるのは、当然ということになります。会社側も健康の維持増進はコストでなく、投資と考えられるようになってきています。シャワー室を設けて、自転車通勤を促す会社もでてきています。社員に健康になってもらい、生産性を上げるノウハウが蓄積できれば、御の字でしょう。健康寿命が伸びれば、医療や介護にかかる社会的費用が節約できます。人生は仕事だけでなく、仕事、趣味、家族などのバランスをとることが大切という認識が、受け入れられるようになりました。社員の健康は、本人はもとより、会社にとっても、社会にとってもハッピーなことなのです。その一助として、自転車通勤が選択肢になります。
最後になりますが、個人の節約、企業の節約など考えられるわけですが、社会全体としての節約も考えなければならない時期にきています。高度成長期には人々が郊外の一戸建てに居住するようになり、水道も道路も延長されていきました。この高度成長期に無秩序に拡大した都市の郊外拡散は、行政コストを高くしてきました。郊外には、空き家が目立つようになってきており、郊外の水道敷設が無駄になっているケースも見られます。水道事業は、ほぼすべての自治体が赤字に転落しようとしています。一方、近年は高齢化も進み、郊外から都市部への移動も顕著になってきています。医療や介護の便利な都心に回帰する動きが、急速に進んでいます。変化の激しい出来事に対して、自治体はその時々に最適な解を選ぶことが求められます。町のデザインも、高度成長時代とは違う様式が求められています。たとえば、ワンルームでも、十分という世代が増えています。一室がリビングルーム、ダイニングルーム、ベッドルームでもある多機能性をもつワンルームでも十分という個人が増えています。都市部で、一室を確保して、本屋、洋服屋、レストランなどの飲食店などの街の施設を、自分の部屋の延長とする発想です。ワンルームなど間取りが少ないほど、「余暇・レジャー」にお金や時間を使う割合が高くなっているのです。都市部のデザインは、余暇やレジャーの要望に合うように作っていけば良いわけです。既存の空き家などをリフォームし、少ない資金で、人々のニーズに沿った施設を、小さな町中に作っていく知恵が、住民、民間企業、地域行政にも求められる時代に来ているようです。
