世界を眺めると多種多様な言語や宗教と多彩な生活様式などの多様性が、人類の生存を支えてきたことがわかります。その中でも、歌とダンスは人々の生活を豊かにしてきました。歌やダンスは、共通の言語を持たない国々の人々にもスムーズに受け入れられる要素がありました。たとえば、K-POPは、共通の言語を持たないアジアや欧米の人々にも楽しんでもらえる要素を備えています。K-POPのグループが日本で公演する時、日本の若者は喜んで受け入れていました。この現象は、日本だけでなく、米国でもヨーロッパでも見られる現象です。文化人類学者によると、国を越えて受け入れられやすいパターンがあるようです。我々の祖先であるホモ・サピエンスは、きわめて移動能力が高く、適応能力が高い生き物でした。多種多様な言語や宗教を生み出し、多彩な生活様式で生存を支えてきました。その中で、人類に特徴的なことがあります。地域は違っても、なにを喜び、なにを哀しむかは、どの国でも似たようなことが多いのです。文化人類学者の分析によると、世界中の神話や物語は30程度のパターンに分類できるそうです。この30のパターンの音楽や身体言語が、本当の喜びや悲しみを表現するものになっているというのです。30のパターンには聞いたり、読んだり、見たり、しぐさをなど心地良いと感じるパターンが私たちの身の回りにも、そして世界各地にもあるというのです。K-POPは、この心地よい特性を歌とダンスで表現しているのかもしれません。
歌には。気分を高揚させる効用もあることが経験的に良く知られていました。たとえば、仕事をテンポ良くやりたいときには、気分を高揚させる音楽を聴いた方が能率はあがります。購買意欲が高い時には、その意欲を刺激する曲を流すことになります。イギリスのスーパーで行われたワイン売場での実験では、音楽が売上げに貢献することを示しました。フランス音楽を流したとき、ほとんどの人はフランスワインを買うのだそうです。ドイツらしい音楽(ビアホール音楽)をかけると売れたのはほとんどがドイツワインだったそうです。面白いことに、その購買決定がBGMに影響されたことを購入者は、断固として否定したのです。知らないうちに、ワインを買っていたのです。飲食をするお店の雰囲気が、食の満足度を高め、売上げに影響することが分かっています。ある1000店以上のレストランを運営するチェーン店では、音楽が普通に流れています。この流す曲は、ただ単に流しているわけではありません。曲に対して、お客がどのような反応を示すのかを調べたうえで流しているのです。客の回転を速めにしなければならない時間帯には、ビート数の高い曲が選ばれます。食事をする客の様子に応じて、テンポとかスタイルを調節しながら、全国の店舗に送信しているわけです。その経験から、ある時期にクラシック音楽を流せば、平均して10%以上の売上げることも分かってきました。
歌の効用は、小鳥のさえずりからも分かり始めました。野鳥の世界では、良いさえずりのオスの求めをメスが受け入れるという流れになります。春の鳴き声は、小鳥たちの生存をかけた鳴き声になるわけです。オスの魅力的な求愛の鳴声は、メスを引き付けることは知られていました。最近、オスの魅力的な求愛の鳴声が、人にとっても好ましく感じる傾向があることが分かってきました。米エール大学とカナダのマギル大学などの研究チームが、この求愛の鳴声と鳴声に対する人間の好みを調べました。人間が様々な動物の鳴き声に対して、どのような好みを持っているかを調査したわけです。その調査の結果、人間と動物の音に対する好みには、共通する部分があることを発見しました。研究チームはインターネットのゲームを使って、どのような好みを持っているかを調査しました。世界の4000人以上の人に、求愛音と他の音を比較し、どちらを魅力的に感じるかを尋ねました。片方の音は、動物のメスが好む求愛の鳴き声でした。サルなど異なる16種のオスの2つの求愛音を比較し、どちらを魅力的に感じるかを尋ねたわけです。2つ音では、人間もメスを引き付ける求愛音を選ぶ傾向がみられたのです。音色やリズムなどの美的感性は、人類も動物も本来持っている仮説が浮かび上がってきました。
動物の世界では、強さや美しさ、そして美しい声が、優れた子孫を残すことに繋がるとされています。草原の鳥の鳴き声は、森の鳴き声よりも高周波で速いテンポになります。森では低周波の音と甲高いさえずりになります。おそらく、人類も森から草原に出てから、遮るものがない場所で、仲間に情報を効果的に伝達できる声を獲得して行ったのでしょう。多くの歌をうたえるオス鳥はより健康なので、多くのメス鳥から良い印象を獲得しました。あるいは、良い印象を得るために歌のスキル向上の努力をしたのかもしれません。鳥類の発声装置は、鳴管であることが分かりました。鳴管は胸の奥深く、気管が気管支に枝わかれるところに位置していいます。哺乳類の喉頭に相当する鳴管には、弾力性に富む膜があり、その振動によって発声するわけです。特に、ホルモンが増えることにより、繁殖とさえずりの衝動が生起するようです。そして、このさえずりが、小鳥だけでなく、ヒトを含むあらゆる動物に良い印象を与えるのです。この良い印象を、いろいろなビジネスに使うことができないかという発想が生まれます。たとえば、ソフトバンクには、ペッパーくんという人工知能を備えたロボットがあります。ペッパー君がどう受け答えをするかは、吉本興業の笑いのプロが考えているようです。人間を癒すロボットの開発は、急速に進んでいます。商業化されたロボットも少なくありません。この最新のAIとヒトの原初的欲求(歌やダンスなど)を組み合わせて、新しい歌やダンスの分野を開拓する発想も出てくるかもしれません。
ヒトを含めて動物を心地よくするさえずりとAIの能力を組み合わせるとどうなるでしょうか。特別な創作能力がない人間でも、生成AIを使えば、質の高いコンテンツを生み出せる時代になりました。創作能力を持っている人間は、その能力と生成AIを組み合わせで、さらに質が高い創作が可能になりました。人間の創作能力と生成AIを組み合わせることで、質の高いコンテンツを、今まで以上のスピードで創作できる時代になりました。マーガレット・ボーデン(Margaret Boden)は、認知科学および人工知能(AI)の分野における創造性研究の第一人者です。彼女は、創造性を3つのタイプに分類したことで知られています。それは、組み合わせ的創造性(Combination-Creativity)、探索的創造性(Exploratory-Creativity)、革新的創造性(Transformational- Creativity)の3つです。組み合わせ的創造性は、既序のアイデアや知識の紅み合わせで、新しいものを生み出します。探索的創造性は、既存のアイデアや知識をなんらかルールや手続きで深索し、新しいものを生み出します。そして、革新的創造性は、既存のアイデアや知識の枠を飛び越えて完全に新しいものを生み出します。生成AIは明らかに組み合わせ的創造性、探索的創造性の2 つの「創造性」持っています。AIよって、初めて成立する文化コンテンツが生まれています。でも、革新的創造性に関しては、AIは手探りの状態です。ここに、歌やダンスなどの要素が入ってくれば、革新的創造性に近づける可能性が出てくるかもしれません。
余談ですが、人間の話す言語の起源は、歌と踊りにあるとされます。歌のフレーズや踊りの手順が、文を構成し、だんだんと言語に不可欠な文法構造ができたようです。日本には、各地特有の田植え歌があります。この歌を作業中に行うと、集団の能率が上がりました。集団の生産性があがれば、個々のメンバーの利益も増えることになります。稲作のように、集団の力を集中しなければならないときには、凝集力が求められます。この力をもたらすものが、田植え歌だったわけです。長調でつくられた歌ならば幸福感をもたらし、短調の旋律であれば悲しくなります。作業を効率的に行う歌は、幸福感をもたらす、リズムカルなものになるようです。現在は、チームによる創造的作業が注目されるようになりました。特に、異質の人材で構成されたチームは、ブレイクスルーをもたらす成果を上げることがあります。このようなチームの士気やモチベーションを高める音楽や香りの要素に加え、AIの創作能力を利用する仕組みを取り入れる発想がいずれ取り入れられるかもしれません。
最後は、歌とAIの融合のお話しになります。アフリカを出て、人類がいろいろな地域に移動して、その地域で生活するようになっても、なにを喜び、なにを哀しむかは、どの国でも似たようなことが多いのです。喜びや悲しみの表現は音声の言葉より、歌(リズム、メロディ、ハーモニー)と身体言語でコミュニケーションを行っていたのです。この歌や身体言語が、本当の喜びや悲しみを表現するものになっていたともいえます。この表現を、現在のAIはスムーズにできるようになりつつあります。現在の画像生成AIは、文章でこんな絵とか画像を生成してほしいと指示すると画像生成を行います。画像生成AIに、「最高品質で」というプロンプトを含めることで、出力される画像が高品質になります。指示の希望通りに、プロ顔負けのイラストや本物の写真と見分けのつかない画像を生成する状況が生まれています。生成AIから出力を得るために人間が入力する指示文は、プロンプトと呼ばれています。もちろん、画像だけでなく、音楽でもこのプロンプトは可能になるでしょう。世界中の神話や物語を分析すると、30程度のパターンに分類できました。それらには、聞いたり読んだり見たりして、心地いいと感じる物語やお話があります。その心地よい物語には、共通の「型」があることが分かりました。歌にも、心地よい良いものがあります。心地よい歌の「型」をAIに学習させ、個々人に心を豊かにする音楽配信の発想もおもしろいかもしれません。
