2024年から2025年の4月まで、コメが高騰しました。2024年の2000円以上から4500円まで値上がりました。農林省は慌てて備蓄米を放出して、この急場を防ごうとしました。でも、放出した米が消費者のもとに出回らない状況が続きました。その中で、農林大臣が方言をしてしまい、辞任することになりました。新しく農林大臣に就任した小泉大臣は、電光石火の対策を打ち出しました。おおむねこの対策は、好感をもって受け入れられているようです。でも、早急な対策には、いろいろなクレームが付きまといます。古古古古米は家畜用に回すコメだとか、古古古古米は匂いがするとか、噛んでいて甘味がないとか、輸送はどうするのかなど、安いコメが出回れば農家の生産意欲が無くなるとかなど、もっともそうな意見が次々に出てきます。私個人がこれらの意見に不信感を抱くのは、ではどうすれば消費者に適正な価格のコメが提供できるのかという代案がないことです。今回は、これらのクレームに対する、未熟な解決策を提示しました。そして、日本の農業の再生を提案できればと考えました。
日記に楽しそうな内容を書いた修道女たちは、ネガティブな修道女より10年近く長生きしたというお話があります。健康だから幸福なのではなく、楽しいから、幸福だから、健康という側面も人間にはあるようです。この楽しさや幸福には、決まった形やパターンがあるわけでもないようです。甘い昧だけが良い味なのではなく、コーヒーの苦みや渋みなども、昧の楽しさや豊かさになるようです。この楽しさを上手く味わうためには、意図的であることや計画的であることで、確実に享受できるようになります。今が楽しくないのは、ずっと以前に楽しさの種を蒔かなかったことに原因があるようです。もし、楽しさをシステムとして、自由自在に作り出すことができれば、古いコメも美味しく食べる工夫が次々に出てくるかもしれません。団塊の世代は、給食で脱脂粉乳とコッペパンで成長しました。他に食べるものがない時代、それはごちそうでした。古古米が美味しくないとか匂いがするとかで、忌避されるのであれば、高いコメを食べれば良いわけです。でも、お金のない人は、工夫して食べればよいと言うことになります。もちろん、お金のある人も工夫すれば、美味しく食べて、節約したお金を投資や寄付のような形で使うこともできます。
人間の味覚は、実は思いのほか暖昧だと分かってきました。実は、おいしさを左右するのは味覚だけではないことが徐々に解明されてきました。東洋大学の石川知一准教授は、視覚が食事や味覚に与える影響を研究しています。この研究の一端を、覗いてみました。体験者は柔らかい団子を食べながら、ゴーグルをかけて仮想の菓子の映像を見ています。この映像は、解像度が低く角張った形のいかにも硬そうなクッキーを映し出しています。角張った形のいかにも硬そうなクッキーの映像を見て、団子まで硬く感じやすくなるというのです。人間の味覚はとても暖昧で、他人にたやすく操られてしまう傾向もあるのです。もう一つの事例は、家族の記念日にレストランを訪れ、豪華なディナーに舌鼓を打つ家族がいます。この場が盛り上がりますが、全員が頭や首にゴーグルや機器を付けていいます。ゴールからは「ステーキが柔らかくて絶品、カレーも昧に深みがある」という映像が流れています。でも、実際の食卓を覗いてみると、質素な干し肉やできあいのカレーが並んでいました。技術の進歩は、美味しい食事を望む人間に多様なチャンスを与える可能性があるようです。古古米を美味しく食べる工夫は、現在の技術でいくつか実現しそうです。
美味しく食べる工夫は、食材の視点からだけでなく、食べる空間からも工夫されています。お店の雰囲気が、食の満足度を高め、売上げに影響することが分かっています。たとえば、1000店以上のレストランを運営するチェーン店では、音楽が普通に流れています。この流す曲は、ただ単に流されているわけではありません。曲に対して、お客がどのような反応を示すのかを調べながら流しているわけです。客の回転を速めなければならない時間帯には、ビート数の高い曲が選ばれます。食事をする客の様子に応じて、テンポとかスタイルを調節しながら、全国の店舗に送信しているわけです。その経験から、ある時期にクラシック音楽を流せば、平均して10%以上の売上げることが可能であることも分かってきました。また、店の調度品によっても、満足度が異なることが分かっています。丸いテーブルを使ったインテリアのほうが、人々を惹きつける力があるのです。でも、丸いテーブルだけでは店に入れる人数は少なくなります。そこで賢いお店は、丸いテーブルと四角いテーブルの両方を店に置く知恵を働かせているようです。お客様の様子を見ながら、丸いテーブルにするか、四角いテーブルにするかを判断して案内をするわけです。結果として、お客の食欲を高める曲やテーブルが分かれば、お客の好みに合った曲を流し、テーブルを選択すれば良いことになります。お店の雰囲気を高めるには、丸を基調にしたテーブルの配置が望ましいわけです。そして、お店の目標は、利益を上げることです。最終的には、音楽と調度品、そして利益の全体最適を求めることになります。このような経験から、人の味覚が意外と曖昧なものだと言うことが、経験則的には理解されてきたようです。
もちろん、食事は美味しさだけでなく、健康の面からも考慮していくことが求められます。日本人の食事を考えるにあたって、面白い研究があります。この研究は、1960年、1975年、f990年、2005年と15年ごとに、その年の日本人家庭の食生活を再現したものです。15年ごとに日本人家庭の1週間分の食生活の内容を再現し、その栄養成分の比較を行ったのです。3種の食事内容を凍結乾燥後、8カ月間にわたりマウスに餌として与えて変化を観察しました。1960年代の食事内容は、たんぱく質や脂質が少ない傾向が見られました。この頃は、生活習慣病よりも低栄養による疾病が多かった時代になります。1960年以降は、徐々にたんぱく質と脂質の増加が見られるようになります。これに対して、炭水化物であるコメの占める割合が減少する時代になっていきます。中でも、脂質の増加傾向が顕著で、2005年の食事では1960年と比較してほぼ3倍になっています。マウスを使った実験になりますが、1975年の食事内容は、内臓脂肪が増えるのを防ぐ働きがありました。現在問題になっている生活習慣病を、防ぐ食事になって言わけです。さらに、糖尿病の原因とも言われるインスリン感受性低下も1975年の食事が最も少なかったのです。日本食の良さは、1975年の食事にあるようです。1975年といえば、日本のコメの生産量は1309万トンでした。今回の令和の米騒動では、660万トンに減少しています。コメがたくさん取れた時期が、健康に良い食事を取っていたことになるようです。今からほぼ50年前、高度経済成長の真っただ中です。この頃から、ファストフードの波が始まった年代でもあります。
もう一つの課題は、コメの輸送の問題です。ドライバー不足とトラックの不足が挙げられています。備蓄米の放出は、緊急時の処置でした。ここに人員とトラックを向ける余裕がないとされているわけです。コメを大量に、安全に、品質を維持して運ぶには、それなりのトラックが必要になります。さらに運んだお米を玄米から白米に精米する工程があります。ここに時間と人手がかかるというわけです。では、どうすれば良いのでしょうか。備蓄米は、30kgの袋に入っているケースもあるようです。知人の例になりますが、彼と彼女は30㎏14袋(1袋30㎏、玄米)を毎年買っています。秋に7袋、春に7袋を契約農家に直接受け取りに行きます。昨年までは30㎏を9000円で買っていました。今年はさすがに、知人のほうから申し出て、12000円にしてもらったそうです。ドライバーもトラックも不足していますが、自家用車は多くの人が持っています。お米の欲しい方は、直接農家と契約を結べば、リーズナブルで楽しいお米の取引ができます。この方式を備蓄米の倉庫の前で行えば、輸送の問題が解決するかもしれません。ここでの必需品は、家庭用自家精米機(15000円程度)になります。
最後になりますが、日本は、21世紀に入り勢いが低下してきています。一つの事例が、農業になります。もう一つは、ジェンダーギャップです。さらに、少子高齢化の先進国とまで言われるようになりました。これと対照的な国がデンマークになります。デンマーク経済が安定しているのは、女性の就業率の高さによるものです。女性議員が、産前産後休業(産休)や育児休業(育休)などをしっかりと制度化しました。女性議員が、子どもを産んでも仕事ができるように制度設計をしたわけです。デンマークの子育て支援が確立されてきたのは、1980代のことになります。農業に関わる生産人口も確保され、豊かな国になっています。デンマークの方に言わせると、「日本では自給率が低いにもかかわらず、休耕田がなぜたくさんあるのか」ということになります。デンマークの農業は、自給率が300%です。なぜ、分たちで食べ物をつくることを考えないのかと不思議な国と日本を眺めています。もう1つの成功している国が、オランダになります。小さなオランダが、世界第2位の農産物輸出国なのです。その立役者は、植物工場です。オランダの植物工場は、徹底的な合理化を行っています。耕作、追肥、種まき、収穫作業において完全自動化を行っているわけです。発芽から栄養配分、生育の監視や収穫まであらゆることに関連した機器が考案されています。植物工場では、雑菌や菌を入れない仕組みになっています。菌の少ない野菜は、長持ちするので、廃棄率も少なくなります。食の安全性も保障されています。オランダにできて、日本できない理由が、65年前にできた農地法の規制になります。オランダでは、植物工場が規制もなく、自由に農作物を作り出しています。そして、農産物の輸出額は、10兆円を超えています。日本は、65年前にできた農地法の規制により、災害に強い植物工場を作れません。コンクリートを使用した植物工場は、農地と認められていないのです。その工場には、高い税金がかかります。税金のかからない脆弱なビニールハウス農業は、豪雪や暴風により崩壊しやすいものです。65年前の国内農業を守ることに主眼を置いた農地法を改正すれば、オランダのように自由に植物工場を稼働させることができる環境が整います。農業に関わる人達を増やし、ゆたかにする政策を取り入れることです。そして、おコメを安定的に供給できる仕組みを創ることです。