強権国家(ロシア、中国、米国、イスラエルなど)は、スキがあれば弱小国家の権益を犯そうとします。最悪の場合、戦争という形で利益を得ようとするわけです。戦争が常時襲ってくるかもしれないと身構えている国が、永世中立国のスイスです。スイス国民は、戦争に巻き込まれれば、国土の大部分は初日から戦場になるだろうと想定しています。開戦当初の空襲で、多く被害がでると覚悟しています。その上で、被害者を全て救助することは、困難だと割り切っています。この被害を最小にするために、個々の家々では、防空壕を備えています。戦争被害は、同情だけでは問題が解決しないことを理解しています。素朴な人道主義や偽物の寛容は、悲劇的な結末を招くと認識しています。スイスが外国の占領下におかれた場合、外国の軍隊から住民にたいして暴力的な懲罰が多く起きることを覚悟しています。ロシア軍が最初の侵攻で、拘束したウクライナ人を射殺した死体と路上に放置した映像が流されました。このようなことは、想定済みのようです。国土を占領した敵国の軍隊に抵抗することは、厳しい苦痛と忍耐が必要になります。ただ、占領されて地下闘争を行う場合、無益な血を流さないように戦わなければなりません。国の独立を維持するためには、多くの一般市民が生命を犠牲にする決意を見て取れます。この決意を、敵国の軍隊や組織が巧みに偽装して、社会進歩とか平和などを主張し、国の内部を崩壊させるプロパガンダが横行することは当然行われます。ロシア軍が侵入し略奪を行うことに対するウクライナ市民の行動を見ていると、スイスの「民間防衛教書」の内容と類似することに驚きます。
軍隊を持つ国は、国民に対して自国の防衛に関する知識やスキルを提供しています。たとえば、米国は、首都ワシントンに国際スパイ博物館を開設しています。この国際スパイ博物館には、秘密工作のコーナーもあります。博物館の展示は、エスピオナージ、インテリジェンスと呼ばれるスパイ活動を子ども達も分かるように説明しています。ちなみに、エスピオナージ(Espionage)は、国家や組織が秘密・機密情報を不正に取得する「諜報活動」や「スパイ行為」の英語表現になります。サイバー空間で政府・企業情報を盗むなどの文脈でも頻繁に使用され、米国の外交・安全保障においては、不可欠なものであると子ども達に説明しています。また、インテリジェンスは、単なる生の情報(インフォメーション)ではなく、収集した情報を分析・評価・解釈し、特定の判断や意思決定に役立つように加工・生成された「知見」や「洞察」と子ども達に説明しています。博物館は、国際紛争の予測や未然防止に役立っている点を子どものうちから教えているわけです。予測や未然防止だけにとどまらず、自ら未来を変えるような強引な工作活動もおこなったことも説明しているのです。強引な工作活動に情報機関が従事してきたことは、また歴史的事実でしたので、隠すことはできないようです。ベネズエラ大統領の拘束と米国への連行やイランの指導部の暗殺などは、最近の事実として理解されることでしょう。
一般に、エスピオナージに関する詳細は、明らかにしないことが普通です。一般市民が犠牲になっても、隠す事例もあります。有名な事例では、第二次世界大戦中に起きた「コヴェントリーの悲劇」が知られています。イギリス軍は、イギリスの小都市コヴェントリーがドイツ空軍に爆撃されることを察知しながら、この爆撃を見逃しました。イギリスは事前にドイツ軍のエニグマ暗号を解読していました。でも、その後の迎撃戦を有利に運ぶために、非情な処置をとったのです。「小の虫を殺し大の虫を生かす」という戦術の話が戦争や紛争の中には起きるようです。現在でも、この種の戦術は頻繁に使われているようです。また、海底ケーブルから情報を盗聴するケースは、以前から行われていました。20世紀初頭、世界の海底ケーブルは36万kmに達し、その大部分をイギリスが所有していました。この海底ケーブルを使って、イギリスは情報通信において独占的優位を確立していたわけです。イギリスには、海底ケーブルから盗聴する技術の蓄積があります。この延長線上に、潜水艦の把握の技術も構築されました。冷戦中、アメリカは潜水艦の音が遠くまで広がる深海の層を発見しました。深海の層を発見と時を同じくして、通信用のケーブルを応用して「SOSUS(音響監視システム)」を開発したのです。SOSUS用の海底ケーブルと音響センサーが、海底の要路にひそかに設置されたのです。しばらくの間、ソ連の潜水艦の行動は、丸裸になりました。ソ連もやがて自国の潜水艦の動向が、アメリカによって監視されていることに気が付きます。その監視区域を避けて、航行するようになりました。暗号などを解読しても、解読の事実を相手に知られないようにする偽装も必要な世界になります。
米軍が今月初旬に実施したベネズエラの軍事作戦では、米軍には死者がでませんでした。特殊部隊のへリコプターが、迎撃されてパイロットが負傷しました。でも、へリコプクーが迎撃された機体の損傷は重大ではなく、同機は無事に帰還しています。結果的には、最小限の犠牲で目的を達成することができました。この成功は、カーター米政権下の1980年4月、イラン大使館人質事件の解決を目指した軍事作戦「イーグルクロー作戦」は、イランの砂漠でのヘリコプター故障や輸送機との衝突事故により失敗し、8名の死者を出した事例とは対照的でした。報道によれば、ベネズエラの防空網はロシア製でした。そのロシア製の防空網を補完するために、中国製のレーダーを使っていたとのことです。米国務長官は、マドウロ氏の邸宅が「国内最大の軍事基地内の真ん中」にあったと明かしています。その軍事基地にいた大統領を拘束し、米国に連れ去ったわけです。ロシアと中国の防空システムは、米軍の戦闘機や爆撃機150機の編隊が飛んでくるのを探知できず、ベネズエラ側はロシア製と中国製のロケット砲を保有していたが、一発も撃てなかった事実が残りました。米国にスパイ博物館があるとすれば、中国にもロシアにも、それに類似した施設があると思われます。その施設で、おそらく数年後には、今回の事例が明らかにされていくことでしょう。米軍の作戦は、12月下旬に行われる情報が流れていました。でも、天候の関係で作戦が延期されていたとされます。とすれば、天候を一つの視点にして、この作戦の弱点を探り出し、その阻止を工夫することも一つです。さらに、150機の編隊を探知できなかったロシアと中国のレーダーシステムを改良する視点も一つになります。盾と矛の強化と弱点の補強が、軍事専門家の頭を悩ますことになるかもしれません。
相手を出し抜く今回のような作戦が、2007年にイスラエルとシリア行われていました。2007年に、イスラエルが軍事活動の前に敵の防空綱にサイバーないし電磁波攻撃をかけた事例があります。これは、シリアの核施設と疑われる建物を空爆した「アウトサ・ボックス」作戦になります。イスラエルが、シリアの核施設と疑われる建物を空爆した作戦でした。シリアが国際原子力機関(IAEA)に通知していない核施設をつくっていると、イスラエル空軍が施設を空爆しました。この空爆の際、イスラエルは事前にシリアの防空綱にサイバー攻撃ないし電磁波攻撃をかけたのです。イスラエルの戦闘機はシリアの国土を横断しましたが、探知されることなく空爆をして無傷で帰還しあした。爆撃をされた当のシリアは何が起きたのかしばらく把握することができず、何も発表しませんでした。3年後、ホワイトハウスで同作戦を見守っていたリチヤード・クラーク氏が、著書の中で言及して、初めて概要が分かったというものでした。エスピオナージに関する事項は、なかなか表には出にくいものになります。逆に、すぐにわかるようなヒントがあれば、盾と矛の改善がスムーズになされることを意味します。
米国を脅威とする国々は、今回の作戦で得るものが多かったように私には思えます。米国のスパイ機関が、マドクロ大統領の拘束に関わった実態はいずれ明らかになるでしょう。注目すべきは、今回用いられたサイバー攻撃になります。米軍の攻撃に際して、ベネズエラの防空綱が無力化され、首都カラカスでの停電になりました。この防空網の無力化は、米国家安全保障局(NSA).やサイバー軍がかかわったとされます。サイバー軍は米軍の最上位の統合軍のひとつで、サイバー攻撃の実行を担当します。NSAトップである局長とサイバー軍の司令官は、同一人物になります。NSAはシギントと呼ばれる通信情報の獲得と分析、暗号解読などを担うスパイ機関でもあります。平和的な宇宙開発の組織という一面と戦争の最前線に位置する組織でもあるのです。スノーデンの暴露により、NASAは宇宙開発だけでなく、全世界のインターネットや携帯電話の情報を盗み取る役割もあることが分かりました。IT企業が暗号化のソフトを開発するときに、NASAは暗号ソフトにトラップドアを仕込むことも行いました。開発業者やIT企業と協力して、この機関はハードとソフトにセキュリティホールを埋め込むことも行っています。セキュリティホールを埋め込む際に、業者が自発的に行う場合と法的命令で協力する場合があったようです。道義的問題に発展しましたが、米国は同盟国の情報も盗み取っている事実も明らかになりました。
最後になりますが、トランプ米大統領は、ベネズエラでの軍事作戦で「秘密兵器」」を使用したと明らかにしました。「ディスコムボビニレー」(混乱装置)と呼び、詳細は説明しませんでした。その後、関係者の話が当時の実情を明らかにしています。マドゥナロ大統領の警護部隊が後日、「突然、全てのレーダーシステムが停止した」と語っています。目撃者は「突然、頭が内側から爆発するような感覚に襲われた」とか、「全員が鼻から血を流し、血を吐く者がいた。地面に倒れ込み、身動きがとれなくなった」とか、「彼らが何かを発射した。非常に強烈な音波のようだった」と話しています。目撃者の話としては、秘密兵器は警護部隊も直接標的にしたようです。でも、レーダーを無力化した兵器と警護部隊を狙った兵器が同一のものかは明確には分かっていないようです。作戦開始から5時間弱で、ベネズエラの首都カラカスから大統領を連れ去りました。軍事作戦におけるサイバー撃ないし電磁波攻撃の有効性が実証されつつあります。サイバー攻撃ないし電磁波の役割は、ウクライナ戦争でも有効とされています。日本の防衛に関してもサイバーや電磁的攻撃の防衛能力の向上が急がれています。もっとも、その前に国民の意識を変えることも必要なのかもしれません。
