子ども達の不安を少し軽減する知恵  アイデア広場 その1753

 最近の若者に関する調査では、若者のメンタルへルスの悪化が世界共通の課題になっているようです。日本の場合、2024年は全国的に自殺した人が減少しました。でも、小学校、中学校、高校生の自殺者は529人と過去最多になりまました。小中高生の自殺の原因や動機は、「学校問題」が最も多く、次に「健康問題」、「家庭問題」と続いています。蛇足になりますが、日本で2024年、20歳未満の女子の自殺者数(430人) が男子(310人)となっています。10年前は、女子が165人、男子が373人でした。男子が多く、女子が少ない傾向は長く続いました。近年は若者、特に思春期の女子に多くなっています。思春期は、誰もが心の揺らぎを経験する時期になります。この思春期のこの揺らぎが、かつてないほど大きくなっていることが自殺の数字から読み取れます。今回は、学校における問題から、この抑止を考えてみました。

 自殺の伏線には、いじめや不登校の問題があるようです。文部科学省の問題行動・不登校調査によると、いじめ件数は2024年度(令和6年度)の速報値によると、小中高のいじめ認知件数は約77万件、不登校児童生徒数は約35万人に達し、いずれも過去最多を更新しました。いじめは4年連続、不登校は12年連続の増加となりました。この増加が、若者の自殺にも影響を及ぼしているようです。学校現場でも、いじめに対する対処方法はいくつか行ってきました。アンケート調査、生徒の観察などいろいろ行われてきました。その中で効果を上げてきたものは、ベテランと言われる先生の経験と知見でした。その一つに、ソシオメトリー法があります。ソシオメトリー法を用いて、子ども達のグループ間の選択・拒否関係をソシオグラムやソシオマトリックスで表し、集団の構造や個人の地位を明らかにします。たとえば、グループのメンバーであるA君、B君、C君、D君が笑顔で学校生活し、成績が向上している場合、いじめがないと判断できます。グループに所属しない孤立した子どもに関しては、成績も向上し、マイペースで学校生活をしている場合も、いじめがないと判断されます。一方、グループのメンバーA君、B君、C君、D君の中で、C君だけが急に成績が低下した場合や以前と比較して沈んだ状態になったときには、注意が必要になります。この様子を、ベテラン教師が把握し、事前に仲間関係を改善に導くというものでした。でも残念ながら、このようなベテラン教師の存在は減少しています。

 近年は、子ども達の実態や友達関係をより容易に把握するツールが開発されています。すべての子ども達に、タブレットがデジタル教科書のツールとして配布されています。でも、このツールには別の利用方法もあることが分かってきました。こどもに配布したこのツールを活用して、心身の変調を把握するなどの不登校対策を行う教育委員会も出てきました。ある教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報を端末に入力するよう指示しています。この教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報をデータ化しています。気分や睡眠時間に異変があれば、教員やスクールカウンセラーが相談に乗る仕組みになります。ここに先ほどのソシオメトリーにおける友達関係を活用すれば、よりグループ内の良好な状態とか悪化した状態などを把握することも可能になります。また、画像・音声・言語などのビッグデータを活用する技術は、社会へ急速に浸透しています。センサーを配置し、そのデータを分析することで、工場設備の様子も自動的に把握できるシステムができています。教育の分野でも、この流れを採用することができれば、いじめや不登校を軽減の手法を開発できるかもしれません。たとえば、クラスの朝の挨拶をタブレットに向かって行うとこにします。その子どもの顔と声を、データとして収集します。顔や声から、集中度や満足度、風邪などの体調把握を行うことは可能になっています。もし、このような体調把握ができれば、元気な子には元気な子のやり方で、不安や不満がある子には、それを軽減する仕方で接することが可能になります。

 日本の小中学校は、年間1015こまの授業を行うことで学力を維持・向上させています。近年、この1015こまの授業だけでは、不十分ということで、学習塾に通う子どもも増えています。この学習塾も、教え方に進化が見られます。学習塾や予備校が、人工知能(AI)を使ったカリキュムの導入を急いでいます。学習塾大手の英進館(福岡市)は、数年前に中学生向けのAI教材を導入しました。中学生向けのコースでのAI教材は、数学と英語の授業でタブレットを活用しています。このAI教材は、生徒の習熟度に合わせて提示する問題を柔軟に切り替え、きめ細かく指導できることが特徴になります。子ども達が問題を解いていくと、AIが理解度や苦手分野を把握します。AIが理解度や苦手分野を把握して、自動的にカリキュラムを切り替えていくわけです。AI教材は、自宅でも自分の理解度に合わせた学習ができます。子ども達は、AIが個々人向けに作成した教材を使って自宅学習に取り組むことが可能です。最近のAIは、子ども達の理解度や進度の状況把握に加え、子ども達の集中度を解析することができるようです。塾の講師は、集中度や倦怠感の状況に合わせて、いつ、どんな声かけをすれば効果的かもタブレトを通じて支援することが可能になりつつあります。民間でできる指導方法を公的な学校でも、利用できれば面白いことになります。勉強に限らず、学校における集中度や倦怠感を把握して、その子どもに応じた声掛けや支援ができれば、いじめや不登校は軽減するかもしれません。

 とは言え、いじめられている子どもにとって、学校は勉強するどころではなくなります。父親や母親と相談できる子どもは、いじめられにくいという経験則があります。いじめを受けた時、その辛さを両親に打ち明けられ、親子が協力してこの課題に向き合う姿勢が大切になります。両親としっかり話し合い、その課題に立ち向かうことで、辛いいじめを克服していく力が育っていきます。「いじめという困難そのもの」よりも、「その困難をどう受け止めるか」という「態度」が重要になります。話し合いや課題に向き合う場合、いじめの事実を裏付ける確かな物証を確認する作業も大切になります。家族力が低下していると言われていますが、このような話し合いのできる家庭は強いと言えます。強い家庭に見られる特徴に、早寝早起きと三度の食事があります。良く寝る子は、メラトニンが分泌されています。そして、朝起きるとセロトニンが分泌されます。朝の太陽光で、網膜が自然光を感知すると、セロトニンという脳内神経伝達物質が分泌されるのです。セロトニンは、脳神経回路に信号を行きわたりやすくして、脳に覚醒をもたらすのです。セロトニンという物質は、困難なことにぶつかっても、冷静に乗り切るメンタル状態を保ってくれます。家族の支えと自分自身の心理的耐性を育てる習慣があれば、ある程度のいじめを乗り越えられるというわけです。

 余談になりますが、幸せホルモンと言われるものにはオキシトシンの他に、セロトニン、ドーパミンなどがあります。オキシトシンが人とのつながりや愛情による幸福感をもたらし、セロトニンが心の安定と健康の基盤を作り、ドーパミンが目標達成の喜びや意欲を高めます。もし、これらのホルモンが十分に分泌される生活パターンができていれば、いじめをすることもなく、いじめ(多少の困難)に耐えることもでき、学校生活を仲間と楽しく、成績も向上する生活パターンが可能になります。オーストリアのある児童養護施設には、あるエピソードがあります。1930年代に、オーストリア人医師がある児童養護施設を訪間しました。この施設の子ども達は、ほとんど無感動で、発育も不十分だったのです。服も身ぎれいで、食べ物も与えられていたのですが、人との触れ合いに欠けていました。スタッフの数が足りないために、親がするようなスキンシップができなかったのです。驚くべきことに、それらの子どもたちの中に、1人だけ溌剌と順調に成長している子がいたのです。この施設では、子どもたちが寝ている間に清掃スタッフが部屋の掃除をしていました。夜中に施設内を観察していた医師は、ある光景を目撃します。この清掃スタッフが、ベッドの下の段に寝ているあの溌剌とした子を抱き上げては抱きしめたりなでたりしていたのです。抱き上げては、抱きしめたりなでたりしていたのはほんの一瞬でした。でもこのスキンシップは、毎晩、続けられたのです。幸か不幸か、清掃スタッフは抱き上げることにもっとも短時間でスキンシップできる入り口の下の段に寝ていたこの子だけに素敵な行為をしました。このベッドに寝ていたおかげで、その子は順調に成長することができたのです。親子のスキンシップ、父親や母親と相談できる子ども関係なども重要性を暗示す事例になります。

 最後になりますが、若者にとっては、SNSのグループから外れることが孤独として体験されるようです。SNSが、若者のコミュニケーションの主要なツールになっています。このツールを通じたいじめも増えています。SNSには、メリットもデメリットがあることを理解しておくべきです。このデメリットを教える親や教師、そして友人が求められます。たとえば、「メールに返信がなくて悩んでいる友人にどのような声かけをするか」という課題をグループで話し合うことも、一つの選択肢になります。子ども達が、思い思いに自分の考えを話すと人によって、考えていることが違うことに気づきます。でも、意見が違っても話し合えば理解し合えることもわかるものです。だれもが、悩みを抱えていることがわかります。気持ちが落ちこんでくると、人に相談する気力がなくなってくるものです。自分は、つまらないことで悩んでいる弱い人間だと思われるのではないかと不安になります。自分がそんなに弱い人間だと思いたくないので、無理して頑張りすぎてしまうことが多くなります。無理が重なれば、心が壊れてしまいます。そんな不安を、グループの話し合いで、少し解消していきます。こうしたグループの話し合いの内容は、教師にも役立つものになります。いじめや不登校、そして若者の自殺の問題は、一朝一夕には解決しないものです。子ども自身の力、家庭の力、教師の力を向上させることにより、少しずつ解決の道筋を見出していきたいものです。

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