高価な医療と安価な医療から健康を考える アイデア広場 その1781

 世界の医療産業を眺めてみると、2つの流れがあるようです。1つは高価な医療を享受するする人々とその豊かな人達を対象にする医療関係者になります。他方は、少ない医療費で、健康を維持しようとする人々とその人々を対象にした医療関係者になります。たとえば、1人当たりの年間医療費は、米国の9800ドル、日本の4200ドルと比べて、はるかに低い112ドルがインドネシアの年間医療費になります。さらに、インドネシアは、人口1万人当たりの医師の数は、3.7人で、日本の24人や中国は17人より少なくなっています。金額も医者の数にも違いがある中で、この2つの流れがどのように健康や暮らしの豊かさに貢献しているのかを探ってみました。

 まずは、豊かな米国に目を向けてみます。米国の年間医療コストは、GDPの15%以上もかかっています。アメリカのGDPが2000兆円ですから300兆円の医療費を使っていることになります。ちなみに日本のGDPは500兆円で医療費が40兆円となります。日本の医療費は、GDPの8%ということになります。今回のコロナショックでは、アメリカの医療体制の弱さが見られました。世界で最も医療費を使っている国が、7600万人の感染者と90万人の死者を出しているのです。これだけ見ると、この国も脆弱さを感じてしまいます。でも、アメリカでは確実に守られている人たちがいます。富を持っている人たちは、高額な医療保険に入っています。彼らは、この感染症から守られていました。アメリカの医療保険は、面白い仕組みを持っています。予防医療を重視しているのです。予防医療で、病人を減らすことで会員の健康を維持増進し、保険会社と医療機関は多くの利益を得るという仕組みを構築しています。手術より、検診のほうが費用は安くなります。病気になれば、医療機関には高額の治療費を払うけど、会員が健康であれば、診療費や手術費を払うことはありません。保険会社は、高額な保険金のもらい得となるわけです。患者が病院に来なければ、来ないほど儲かるという賢い仕組みを構築しているのです。保険会社による医療保険の仕組みが、健康を維持する働きをしているのです。そして、保険会社は、健康情報を提供して、利益を上げています。そして、富裕層は病気をすれば、必ず回復するという健康を享受しています。貧富の激しい米国では、富裕層が高額な医療保険により高額医療にも対応し、さらに豊かさを享受するために、予防医学の恩恵を享受している姿を見ることができるようです。

 それでは、高額医療の対象となる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。それは、希少疾患と呼ばれるものになります。希少疾患とは、患者数が5万人未満(または人口の約0.04%未満)という極めて少ない疾患の総称です。世界には7,000種類以上が存在すると言われています。代表的なものに、ライソゾーム病、多発性嚢胞腎、筋ジストロフィー、重症筋無力症、多発性硬化症、パーキンソン病などがあります。その多くは原因不明で慢性・進行性、かつ有効な治療法が未確立であるなど、日常生活に大きな影響を及ぼす疾患になります。一般の病院では、この希少疾患を正確に診断するのは難しいようです。病名が判明しないため、患者の方は地元の病院から地方の中核病院、そして大学病院へと受診を繰り返すことも多くなります。米系アレクシオンファーマの調査では、患者が確定診断に至るには平均3.4年もかかっています。患者の側から見ると困った希少疾患ですが、薬を開発する企業側からすれば、大きなビズネスチャンスになります。先日、新聞に「iPS細胞薬の薬価5530万円 パーキンソン病向け、保険適用へ」の記事が載っていました。開発に成功すれば、破格の薬価(公定価格)が設定され、医療現場に流通させることができます。このように開発に成功すれば、大きな収益が見込めます。米国では近年、新たな有効成分を含む新薬の半分以上が希少疾患用ともいわれています。これは、高血圧など多くの薬が存在する病気と違い競合製品がほぼ存在しないことも、利益を上げる理由になっています。

 一方で、多くの人々が病気に対する対策はどうなっているのでしょうか。結核はエイズ、マラリアと並ぶ世界の三大感染症の一つになります。この結核は、 2022年に1060万人が新たに患い、約130万人が亡くなっています。新型コロタウイルス感染症を除けば、単一の感染症としては最大の死因になります。結核感染者の9割が発展途上国におり、毎年400万人が未診断のまま感染か続いている状況にあります。結核への感染を調べるには、胸部をX線で撮影を行うことやたんの結核菌を培養したりして発病の有無を調べることになります。この結核菌の培養には、数週間の期間がかかるという難点があります。医療体制や交通網が脆弱な発展途上国では、X線検査を受けるのが難しいという状況もあります。この難病の予防や治療には、毎年130億ドル(約1兆9000億円)が必要とされています。サウスワールドの国々では、多検査装置を使わずに、すぐに結果が分かる検査法が求められています。音声バイオーマーカーは、この候補に挙がっています。結核を見つける安価な音声バイオーカーは、医療体制が脆弱な発展途上国で活用する価値を備えています。ケニア中央医学研究所は、せきの音が持つ特徴を手掛かりに、患者を見つけるAIを開発しました。ケニアでは、103人の肺結核患者と46人の他の呼吸器疾患の患者を対象にAIが学習しました。肺結核患者と他の呼吸器疾患の患者を対象に、自然に出た約3万3000回のせきAlが学習しました。肺結核患者と他の呼吸器疾患の患者を対象に、スマートフォンで録音してAIが学習したわけです。結核患者を見分ける精度は76%で、結核患者以外を見分ける性能は72%でした。この制度でも、医療インフラが未整備な途上国で使えば、結核患者をその場で見つけられ、流行防止に役立つツールになるようです。

 ケニアで使われているバイオーマーカーは、結核だけでなく他の病気にも有効であるという知見が増えています。たとえば、アルツハイマー病の早期発見に音声バイオーマーカーが活躍しそうです。米テキサス大学のサウスウエスタン医療センターは、アルツハイマー病を声から見つけるAIを開発しました。軽度認知障害の114人と障害がない92人に、絵画を見その内容を説明してもらいます。絵画を見せて、その内容1~2分間で説明してもらい、AIが判定するものです。まず、話し方の滑らかさや使っている文法の複雑さを分析します。従来の検査は、数十分の時間と数百~数千円のコストをかけて語彙力などを調べるものでした。従来の検査と違い、AIなら10分程度で病気の兆候を見つけられる優れものです。AIは約8割の精度で軽度認知障害を検出し、従来の簡易検査の7割弱を上回りました。また、国際糖尿病連合によると、2020年時点で成人の糖尿病患者は世界に約5億4000人と推定されています。この約5億4000万人の約半数が、診断のままになっています。血糖値が高い状態が続くと、神経や筋肉が傷付き声に影響することになります。糖尿病はうつ病や認知機能の低下を招きやすく、症状が声に反映された可能性があります。ここに着目して、音声で糖尿病を見つける技術が開発されました。スマホで捉えた話し声の特徴から、2型糖尿病の男女の患者を86~89%の精度で見つけるまでになりました。日本では、糖尿病の血液検査や診察に1万円程度のコストがかかります。この音声ツールならば、いつでもどこでも使え、なおかつリーズナブルな価格の手ごろな検査ツールになります。安価な診断ツールが、AIを使用することによりますます普及する流れができています。

 最後になりますが、高額医療対象でも、安価な医療対象でも、大量のデータをAIに学習させて、利用価値を上げる手法が医療ビジネスの分野で行われています。たとえば、オムロン子会社の医療データ企業(JMDC)では、全国にある約1500の医療機関や健康保険組合からデータを取得しています。JMDCは、どんな治療を実施したかを示す診療報酬明細書(レセプト)を取得しているのです。このレセプトは、患者がいつ受診して、どんな病気だと判断されたのかを示しています。JMDCは、患者の診療情報的に表す「DPCデー夕」などを匿名にしたうえで取得しています。DPCデー夕からは、患者一人ひとりの症状や服用した薬など読み取れます。また、データを見れば患者が入院期間にどんな治療をとけたのかを詳細に把握できます。このデータの総量は、のべ5000万人を超えるまでになりました。5000万人分の患者の症状や治療状況を分析し、有効な治療手段に乏しい難病の薬を生み出す試みです。たとえば、希少疾患の患者が服用した薬の効果を分析すれば、次の薬の開発可能性もでてきます。希少疾患に当てはまる人には治験への参加を検討してもらい、これを繰り返して新薬開発が始まるという流れです。こうした医療データの活用は、海外が先行しています。英国や韓国では、官民で構築した商用利用できる医療デー夕の基盤もあります。米国には、1億7000万人以上のデータを持つベラディグムといった大手企業も存在し、新薬を開発しています。お隣の韓国では、医療AIの起業が、ユニコーンになり、上場を果たした企業もります。日本の場合、莫大な潜在的医療データがあります。でも、その利用方法に制約があり、課題も多いのです。この課題を乗り越えたとき、私たちの健康はリーズナブルな価格で向上するかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました