医学・スポーツ、データサイエンスの融合が幸せを呼ぶ アイデア広場 その1782

 ネット上で行き交う短い文面から、その相手がどんな人かを確かめたいという研究は、世界各地で行われています。日本の情報通信研究機構の研究は、AIを賢く用いることで、人の内面を探る手法を開発しました。この研究実験では、AIがSNSの情報から人々の内面を表す23種類の特徴を推定しています。知能や性格のほか、統合失調症やうつ病の精神状態、飲酒や喫煙の生活習慣も読み取っています。たとえば、毎回のつぶやきで文字数のばらつきが大きいほど「統合失調症の傾向がある」との特徴を抽出しているのです。また、健康状態を探り出す技術も開発されつつあります。これは、ロサンゼルスにあるファッションハウスと大学の試みになります。光ファイバーの衣装をデザインし、光のショーを演じる授業を行っています。たとえば、服が着ている人の脈拍の速さに連動して、服の光のショーが演じられます。脈拍が早くなれば、赤の光が強くなり、脈拍が遅くなれば、青の光が優勢になるというものです。この光のショーは、SNS上のやりとりに表れる感情を分析し、それに沿って色を調節する衣装までも作成しています。また、ウオーキングは、軽い有酸素運動になります。このウオーキングは、末梢で循環する血液の量が増加し、疾患予防の効果があります。確かに、血液には、各器官に酸素や各種栄養素を運び供給する働きがあります。ウオーキングでは、1日7000~8000歩の歩行が有効とされています。欲をいえば、1日8000歩程度の運動で、その運動の中に中強度の運動5分程度入れるとより効果があがります。この中強度の運動を5分間以上すると、うつ病の発症率は10分の1以下になるという報告もあります。光ファイバーの衣装の知見と健康の知見が融合すれば、新しい分野を開拓できるかもしれません。

 普通の生活をしているだけで、脳や身体が活性化する仕掛けがあれば面白いことになります。家にいるだけで、脳や体が良くなれば、これほど良いことはないでしょう。そんなことを実現するモデルが、ある介護施設とスーパーが行った協力の試みにありました。一般に介護施設に閉じこもっているだけでは、広い意味での脳の老化が加速していくことになります。あるスーパーでは、施設の高齢者を専用カートでの買い物を支援しています。介護や福祉施設とスーパーが手を組み、専用のショッピングカートを使って買い物をする試みを始めたのです。この試みに参加した要介護の方たちは、より自由にスーパーを動き回り、自分の欲しいものを自分で手に入れようとする意欲の高まりを見せ始めました。介護用の専用カートで足腰に負担をかけずに、自由に買える楽しさを体験しています。買い物をする中で、運動と計算(身体運動と脳トレ)、そして店の空間認知機能を維持しています。介護施設内のリハビリには消極的な高齢者も、専用カートを使った施設内の練習には積極的に取り組むそうです。このような動きをデジタルツールで把握することは、可能になっているようです。その動きを分析し、健康を維持する仕組みが実現すれば、人々の福音になります。

 健康の維持には、医療分野が大きな力を発揮します。一方、健康の向上や体力の向上には、スポーツなども力を発揮します。この二つの力を持っている大学が、順天堂大学になります。順天堂大学は、江戸時代に開かれた西洋医学塾から発展してきたものです。箱根駅伝の歴史を見れば一目瞭然でしょうが、スポーツ活動に定評のある大学です。この大学の強みは、医療などの分野では診療記録などのあらゆる情報が日々蓄積されていることです。さらに、競技者のトレーニングデータなどのあらゆる情報が日々蓄積されていることでもあります。医療とスポーツのデータはあるのですが、そのデータの利用にはネックがありました。医療にかんしては、その用語が難しく、高度な知識を必要とします。この医療の知識とデジタル技術と組み合わせて自在に扱える人材が限られていたのです。この人材が増えれば、医療と運動の知見の融合が、容易になります。もちろん、ここにデータサイエンスやAIを加味すれば、今までにない起業もしくは有為な人材が生まれるかもしれません。

 医療とスポーツのデータの間にあるネックを解消する試みが、順天堂大学(順大)の健康データサイエンス学部により可能になるかもしれません。順大には、既存の医学部やスポーツ健康科学部などで蓄えてきた多くのデータがあります。順大は、2023年4月、工学系学部として健康データサイエンス学部を開設しました。この学部は、医療とデジタル技術を扱える人材を育成することを目的としています。医療やスポーツ健逮康分野で、AIやデータサイエンスの人材の輩出をめざしています。ここで学ぶ学生は、医療などの知識とプログラミングや統計学といったデータサイエンスの基礎を横断的学んでいます。これらの人材を必要としている企業は、数多くなります。たとえば、MLBの選手は、チームが勝つことに努力しています。チームの勝利数が増えれば、集客数は増加し、入場料も増加し、以外の収入も増加します。チームの活躍のためには、選手の能力を高め、チームを強化する仕事も増えます。チームを強くして収益を上げることは、これからも続きます。そのための多様なスタッフが、必要となります。コーチだけでなく、メディカルトレーナーやメンタルトレーナーなど多くのスタッフが増えている理由が、ここにあるわけです。野球には必ず勝つという方法論は確立していません。一方で、選手の健康管理や戦術の強化の仕事が増えています。戦術の強化には、データ収集と分析があります。これには、統計学に詳しい人材が不可欠です。まさに、この要望に応える人材が、健康データサイエンス学部の卒業生ということになります。

 近年、運動処方が、肥満やうつ症状の方に良い結果をもたらしていることが報告されています。ある実験で、運動の重要性が明らかになりました。うつ病の患者に、薬のグループと運動処方のグループに分けて実験を4ヶ月間行ったのです。うつ病の患者は、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少しています。これを、薬のグループは抗うつ剤で補うことにしました。この結果は、どちらもグループにも同程度の幸福感をもたらすという有意義な結果をもたらしました。この幸福度の改善は、運動が抗うつ剤と同じだけの効果があることを証明したわけです。さらに時間が過ぎるにつれて、運動の効果の優位性が浮かび上がってきました。抗うつ剤を飲んだグループは、6ヶ月後38%が再びうつ状態に戻っていたのです。運動療法をしたグループは、6ヶ月後の再発率はわずか9%でした。運動療法は、「うつ」の状態から90%以上を解放したことになります。ここで終わっては、救われないうつ病の患者の方が困ってしまいます。この困ったことを解決する人材が、健康データサイエンス学部には存在します。2025年に入学した学生の中には、製薬会匠薬情報担当者(MR) 志望の学生もいるのです。この学生は、薬の知識を深く学んでいます。薬と運動のグループに分けた結果は、一定程度の把握ができました。この人材は、薬と運動の組み合わせで、最適な運動処方と薬剤処方を提案することができます。結果として、うつ状態にならない処方箋を提供できる可能性が多くなります。

 余談になりますが、スイスのOvomind (オボマインド)は、腕時計型端末からプレーヤーの感情を分析するAIを開発しました。腕時計型のウェアラブルは、心拍数や発汗、皮膚の温度といった生体データを読み取ることができます。発汗や心拍数といった生体情報を分析して、スーパーマリオなどのゲームの展開にリアルタイムで反映することが可能になります。生体データを読み取り、AIが「興奮」「ストレス」「退屈」など8分野の感情を抽出します。生体情報を分析して、ゲームの展開にリアルタイムで反映し、プレーの没入感を高めるのです。8分野の感情を抽出の結果は、リアルタイムでスマホに表示されます。スマホに表示され、感情に応じてBGMやセリフ、字幕といったゲーム内容が変わるのです。たとえば、ゲームに没入した子どもは、どの場面で「興奮」し、どの時間帯で「退屈」したのかを、データとして蓄積していくことも可能です。どの場面でどんな反応があったかを確かめ、次のゲーム開発にも生かせるようになってきました。蛇足になりますが、順大には様々な測定装置があります。バイクシミュレーターは、人間の動きを情報として分析できるものです。仮想コースを走行している際に、体に起きる変化を数値化することができます。モーションキャプチャーは、専用スーツを着て体の動きを記録する装置になります。モーションキャプチャーで記録したデータは、ゲームやアニメなどの制作にも応用できるのです。ゲームのどのような場面で興奮し、退屈するのか、その時の動作などの分析が可能になります。その意味で、彼らはより良いゲーム開発を支援できる人材になるかもしれません。

 最後は、老後の健康をいかにエンジョイするかということになります。充実した活動には、「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあい」の3つの要素が含まれていることがわかります。ある地域に、卓球グループあります。卓球仲間が、週に決まった日に練習をします。ここでは、ゲームで対戦するライバルに勝つために練習をします。練習は工夫を加え、ラリーにおいて優位になる作戦を練ります。ゲームや練習は、頭を使い、人と人のふれあいの場になります。練習に出るために、日頃の生活は節制をするようになります。このような仲間と練習場所、そして各自に合った練習メニューの存在が、シニアの楽しい生活の一部になるかもしれません。このような生活の実現のために、健康データサイエンスに関わった方の支援を仰ぎたいものです。

タイトルとURLをコピーしました