市町村の潜在力を生かす工夫  アイデア広場 その1792

 国の借金が1000兆円で、地方自治体の借金が200兆円となっています。その自治体によっては、その借金が返せなくなっている市町村もあります。一般に、経常収支比率が適正値(75〜80%程度)で個々の自治体の運営が行われていれば、借金をすることはないようです。予算が10億円の町であれば、10億円の税収がなければ、町の運営はできないわけです。話題になった北海道夕張市の経常収支比率は、直近の決算統計において90%〜120%前後で推移してきました。その苦しい財政運営の中で、11校あった小中学校が1校ずつに統合していくなど苦渋の決断をすることになります。また、水道料金は全国有数の高さになっています。財政破綻に追い込まれたタ張市でも、学校や上下水道や道路などのインフラを維持していかなければなりません。財政難になれば、住民へのサービスが急激に低下する状況が生まれることを覚悟する心構えも必要です。蛇足ですが、夕張市の借金353億円の返済がもうすぐ完了し、「全国唯一の財政再生団体」という状況から、脱出できるという明るいニュースもあるようです。200兆円の借金の現実は、ほとんどの市町村が「預金を崩さなければ、赤字を補えない状態」であることを物語っています。今回は、住民サービスに留意しながら黒字の経営を目指している自治体を見てみました。

 税金の少ない自治体は予算が少なくなり、各種の文化施設の経費が削られていきます。多く公園や運動施設、図書館などの文化施設の経費も削減されています。日本各地には、図書館などの施設の運営費が、縮小されていく自治体の実態もあります。でも、節約だけでは、不満ということで、稼ぐ仕組みを作る市町村もあります。このモデルとして、岩手県紫波町の地域振興が有名です。10年間以上も放置されていた町有地を町の有志が借り受けて、図書館を中心に年間80万人以上の集客力を誇るビジネス地域に成長させています。このプロジェクトの素晴らしさは、使われていない町有地を有料で借り受けて、考えられないようなビジネスの成功をもたらしたことです。紫波町は人口が減少しているにもかかわらず、地方税は増えているのです。町としての生産力が向上していることを示しています。税金が増えれば、行政が市民に行えるサービスの質は向上します。予算の抑制よりも、稼ぐ能力があれば、予算が豊かになり、より良い行政が可能になります。

 1999年から2010年にかけて、「平成の大合併」政府主導で進められました。人口減少や少子高齢化を背景に、行財政基盤の強化を目的に全国で約3,200あった市町村が約1,700にまで統廃合されました。行政基盤を目的に行われたわけですが、統合により自治体の借金が増え、財政基盤が弱体化したという市町村もありました。そんな政府主導の大合弁を強力に推し進めるさなかに、「自立」を公言した町が福島県の矢祭町でした。矢祭町はそれ以降、役場組織の統合や職員の削減など徹底的なスリム化を進めました。年末年始も含めて、年中無休で住民票など各種証明書行や税金の収納事務を実施しています。この25年間、行政サービスの質を落とすことなく、町の運営を行っているのです。2025年度には、町の貯金にあたる財政調整基金が約17億7千万円になりました。この金額は、2001年当時の2倍以上の水準を維持しているのです。「合併しない官言」をして全国の注目を集めた矢祭山町を有名したものに、「もったいない図書館」があります。処分するのはもったいない本を、全国から寄贈してもらう企画を行いました。その結果、全国から約30万冊の書籍が寄贈されたのです。この30万冊をもとに、2007年に開館した施設が「もったいない図書館」でした。矢祭町は「読書の町」を掲げていますが、図書館だけに特徴があるわけではありません。2009年以降、毎年「手づく絵本コンクール」も実施し、全国から作品が寄せられるようになっています。2023年度からは、小学校の教育課程に司書の仕事や図書館の仕組みを学ぶ授業を導入しました。全国に先駆けて「子ども司書制度」を立ち上げたわけです。矢祭町は2025年には一連の読書推進活動が評価され、高橋松之助記念「文字・活字文化推進大賞」を受賞しています。もったいない精神は、町の各分野に広がっています。その一つに、町の商工会や農業者は09年に「もったいない市場」を立ち上げました。通常は出回りにくい規格外の野菜を手頃な価格で提供し、町の特産品も扱う直売所になります。金融機関などの協力を得て、東京で月に数回、開催しています。町の知恵を出し合って、住民へのサービスを継続する自治体もあるのです。

 行政にお金を掛けないで、豊かな地域を形成している国がスイスになります。スイスのある村役場の施設には、学校のほかに企業の入るテナントや広場に面したカフェもあります。村は、村長を含めて職員がパートタイムで働いています。テナントとして入っているコンビニは、午前中のみの営業なのです。この村役場は、多くの機能を兼ねています。図書館は、週に一度オープンするだけです。多目的室では、村議会が開かれ9人の議員が集まって議論が行われます。役場で働く公務員も、基本的に4年任期の自由契約制で、賞与や昇給はないのです。彼らは、農業や観光業の副業を持ち、農道や林道の改修や除雪の作業を行うことで、世界一の収入を得ているわけです。消防などの防火対策は、消防署や州警察署の派出所、15歳までの児童生徒を含めた住民による消防団を組織して、災害に備えています。住民全体で、災害に対処する仕組みができているわけです。スイスの人々は中学や高校を卒業するだけで、家業の農業や観光業を受け継いで豊かな生活ができます。農業や観光業の傍ら、農道や林道の改修や除雪、住宅地の維持管理などの土木建設工事に携わる人も多いのです。国民も多くの場合、複数の職業をもっており、平均年間所得は世界1位の約563万円の所得額になっています。共働きで、2人合わせて1000万円を超える夫婦も少なくありません。でも、生活は質素です。信じられないことですが、出産を農家の主婦が行っているケースもあるのです。助産師はいずれの村にもいないために、獣医や出産を経験した女性がその代わりを務めているのです。助産師は家畜の牛や山羊の出産に立ち会った農家の主婦が、その代わりを務めているわけです。これも信じられないことですが、救急車は有料で、1回につき5500円の負担が必要になります。世界一の金持ちが、いかに質素に生活や行政を運営しているかが分かります。

 成功している市町村は、目先の人気取りより、長期的な目標を重視しています。長野県下條村は、課を総務課・振興課・福祉課・教育委員会の4つに統合し、係長制度を廃止しています。仕事の枠を取り払い、一人の職員が複数の業務を兼務する仕組みにしました。その結果、51人いた村の職員を34人減らすことができました。一人一人の職員が複数の仕事を効率よく行えば、職員数を削減しても業務に支障は生まれないことを証明しているようです。職員を減らして、資金を作りだしました。その資金をいち早く子どもの医療費や高校生の授業料まで無料にしてしまったのです。補助教員を村単独で配置して、学童保育を充実させるなど、教育環境の整備を行いました。保育や医療の充実策が受けて、近隣から転居する人達が増えてきました。さらに、子育て対策を評価した企業が、村に工場を建設ようになりました。昔は、電気と水道のインフラの存在が進出の条件でした。今は優秀な労働力が揃っていれば、進出の条件になります。若い働く人達が、安心して働ける環境は、企業にとっても魅力ある政策になるようです。

 最後になりますが、地方の課題は少子高齢化の流れの中で、いかに豊かに生活するかにというものです。ここでモデルとして挙げた岩手県紫波町、福島県矢祭町、そして長野県下條村の人口は、減少しています。減少する中でも、税収が増え、基金が増え、出生率は全国平均より上回っています。この3つの町村の良いとこ取りをすれば、どうすれば良いかというヒントが生まれます。税収不足や人口減少、産業の誘致、教育力向上などに悩んでいる自治体へのヒントが、隠されているようです。さらに、ここに民間の知見を組み合わせれば、さらに面白いことがおきるかもしれません。西武ホールディングス(HD)は、グループ企業の間接業務を集約する子会社「西武プロセスイノベーション」を設立したと発表しています。この子会社は、経理業務や給与計算の人事業務をまとめて担うことになるようです。この子会社が、総務や人事労務、経理や資材調達などの間接業務を集約的行うわけです。将来的には、この会社が他の一般企業の業務を請け負って、間接業務に関するサービスを展開することを視野に入れるようです。もし、紫波町、矢祭町、そして下條村の職員が、人事交流とか出張支援などを通じて、より効率的な行政を行うことが可能になれば、より良いモデルが実現します。そして、このモデルを全国の市町村の職員が学ぶことができれば、住民サービスを落とさずに200兆円の負債を少し減らすことが可能になるかもしれません。

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