安定したコメの生産と供給を工夫する アイデア広場 その1805

 関税の好きなトランプ米大統領が、モロッコからのリン酸肥料の輸入にかかる関税をー時停止すると発表しました。関税で、自国の利益を上げようとしている大統領にしては、珍しい決定だと思いました。それには、理由がありました。現在、米国では農業生産に見合う肥料の供給体制に不安があるのです。リン酸肥料の生産に必要な硫黄は、主に中東から供給されています。米国では中東情勢の緊迫で肥料価格急騰し、肥料の価格は前年の約2倍にはね上がっていました。ホルムズ海峡の事実上の封鎖で、肥料の原料である中東産ものの輸送が滞っていたのです。米国とイランの軍事衝突から3カ月間の国際価格動向をみると、尿素肥料の価格が63%上昇しました。米国の農家は、小麦やトウモロコシ、大豆の中から収益性がある農作物を見極めて作付けをします。見極めの材料となるのは、肥料などのコスト、収穫までのリスク、そして国際商品価格の動向になります。ここに来て、米国の農家には大きな変化が見られます。米国産小麦の2026年の作付面積が1919年以降で最小となる見込みなのです。その要因が、尿素肥料のコストの急騰から生産をためらう農家が増えたためなのです。トランプ大統領の支持基盤である農家の窮状が、リン酸肥料の関税をゼロにしたと言うことになるようです。

 ここに来て、グローバルな農産物である小麦の取引に不透明感が出てきました。小麦の価格は、ある程度安定したものでした。小麦の値上がり幅が限定的なのは、国際競争が激しいこと一因がありました。2025~26年度の輸出順位でみると、ロシア、EU、オーストラリア、米国、ウクライナ、カナダなどの順になります。そのような中で、世界有数の小麦輸出国であるロシアとウクライナの衝突が激化し、供給不安が高めています。ロシアとウクライナの衝突で、小麦の供給不安が再燃し、小麦の国際価格が上昇しているのです。ロシアは、小麦の生産拡大に動いています。でも、ウクライナによる攻撃で、ロシア側の船舶が被害を受ける状況が生まれています。アゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡の航行がストップし、小麦の輸送にも懸念が強まっています。今の時期は、ロシアの新小麦の輸出が本格化する時期で、アフリカやアジア向けの小麦が心配されています。さらに心配が、増えています。北米産の小麦のも不安材料が出てきています。カナダで作付面積が減少したことに加え、干ばつに見舞われています。米国では、肥料の高騰とやはり干ばつで作柄が悪化しています。北米では、冬に育てる冬小麦の生産落ち込みが懸念されています。この懸念が、小麦の高値に拍車をかけているようです。小麦供給の不安と干ばつによる不作が、グローバル農産物の小麦の高騰を招こうとしています。

 一方で、日本はコメ余りと、コメの価格の下落に直面しています。「令和のコメ騒動」で高騰した2025年産米から、2026年産米は大きく下がると予想されてきました。実際の下げ幅が焦点になり、早場米の産地である鹿児島県や宮崎県の動向が注目されてきました。その宮崎県の2026年産の早場米の集荷協格が、前年比で4割下がることがわかりました。宮崎県は九州の早場米産地のひとつになります。JAみやざきが集荷の際に農家に渡す前払い金は、コンヒカリ玄米60kg、1万8000円になりました。JAが集荷の際にコメ農家に渡す前払い金が、「概算金」と言われるものです。玄米60k g 、1万8000円は、前年産(3万2000円)に比べ、1万 4000円(44%)と大幅に下がるものです。また、7月上旬に決まった鹿児島県の早場米コシヒカリの概算金は、2万540円前後でした。2026年産米は、値下がり基調が鮮明になりました。蛇足になりますが、国認定の業界団体は、コメの生産コストを玄米60k g、2万535円(26年4月時点) と提示しました。2万535円は、店頭価格で精葺米5kg3500円程度とされる水準になります。今回決まった宮崎県産の早場米の概算金は、国認定の業界団体の提示より大きく下回ことになりました。

 コメの価格は、どのように決まるのでしょうか。まず各産地のコメ農家が、地域のJAに出荷することから始まります。そこで、農家に概算金が支払われます。このコメをJAと民間業者が取引をします。民間事業者は集荷価格を決める際に、JAの概算金を参考にします。JAなどの集荷事業者と卸会社が取引する際に決まる価格は、相対取引価格と呼ばれます。流通する25年産米の相対取引価格は、3万7058円(全銘柄平均、税・諸経、を含む)と異常に高くなりました。昨年の25年産の集荷の際には、それまでのコメ不足を受けて集荷競争が過熱したことによるものです。この価格は、比較可能な2006年以降の最高値を記録しています。宮崎や鹿児島の早場米は、今月下旬から関東や関西などの一部量販店で並び始めます。そして、26年産米の価格形成は、九州から新潟県など東日本に移っていくことになります。新潟県や北海道・東北といった主産地のJAなどは、早場米を参考にして価格を決めていきます。問題は、コメどころの主産地は25年産の在庫を多く抱えていることです。売り惜しみ、もしくは売る時期を逸したなどの諸事情があるようです。結果として、集荷価格の水準が早場米よりも下がる可能性が指摘されるようになってきました。消費者も注意しなければならない点は、集荷価格が玄米60kgで2万円を割り込むと再生産は厳しいという点です。25年産のコメの高騰で、農家の方が豊かになったとは言えないようです。農家の方に価格の転嫁が、十分になされていないのです。コメの消費は、安定したものであることが望ましいわけです。そして、農家の方の収入が安定していなければ、コメの再生産ができない状況が生まれるという点です。

余談ですが、日本は、農産物の自給率はカロリーベースで33%と低い現実があります。毎年、多くの穀物を輸入しています。日本は、中国から多くの作物を輸入しています。その中国にも、危機が訪れています。中国の揚子江と黄河の水源は、ヒマラヤにあります。温暖化により、現在ヒマラヤの氷河がどんどん溶け出しているのです。氷河の減少は、中国とインドの二大国の水源がなくなりつつあることを意味しています。中国には、これ以上発展するための水は残っていないのではないといわれています。世界最大の穀物輸出国は、米国です。この国の大穀倉地帯は、その大地の下にあるオガララ帯水層という化石水を使って農作物を栽培しています。オガララ帯水層は、豊富な地下水を誇っていました。この帯水層の水位が、近年急速に低下しているのです。この帯水層の水位の低下がこのまま続けば、穀倉地帯が砂漠化し収穫は低下します。アメリカ農業が生産を今以上に上げようとすれば、地下水や農薬などの新しい危機を誘発する可能性出てきています。日本の農産物の輸入先は、米国25%、中国12%、オーストラリア7%、タイ7%、カナダ6%の順になります。主な輸入5国のうち深刻な水資源が懸念されている国は、米国、中国、オーストラリアになるのです。日本の食料事情は、世界の水不足に左右される面もあることを理解していくことも必要のようです。

 最後になりますが、世界的に見ると小麦不足、日本ではコメ余りの状況が生まれそうです。世界を眺めると、中東情勢の影響や気候変動で農業を取り巻く環境は大きく変わりつつある。小麦は世界中で生産されているとはいえ、その生産量は戦争や気候変動によって浮き沈みがあります。スーパーエルニーニョは、世界規模で異常寺気象をもたらします。そして、その発生確率が高まっています。EUは、6月中旬から異常な熱波に見舞われており収穫期にある冬小麦の作柄が懸念されています。世界的に小麦の生産量が落ち込めば各国・地域が輸出規制に振れやすくなります。主食である小麦などの穀物は、輸出国であっても国内向けの供給が優先されることが多くなります。困ったことは、日本にもあります。2024年9月23~29日に全国のスーパーで販売されたコメの量は、前年同期比で24%も減ったのです。2023年9月に1718円だったうるち米の平均価格は、2024年9月には2525円まで上昇しました。農林水産省は、新米の流通で品不足の減少が落ち着きつつあると国民に呼びかけました。でも、コメの価格は高止まりして、消費者は購入を抑えている状況がありました。その間隙を見て、パンや麺の企業が攻勢をかけてきています。消費者の側にも、コメから食パンや生麺に乗り換える状況がおきました。でも、その小麦が世界的に不足する事態も起きつつあるのです。まだ、日本には米があります。コメの自給自足を安定したものして、国民の食料安保を確実にしていきたいものです。

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