ゴミを食い荒らすカラスと人間の共存を考える アイデア広場 その1816

 ここ20年の鳥類の研究や観察の結果、鳥類は最もクリエイティブな集団だと判明してきています。このクリエイティブな鳥類による被害も、いろいろなところで起きています。その一つが、カラスによる被害です。その被害を防ぐために、カラスの撃退方法が数多く開発されてきました。でも、一時的に効果があっても、その効果が続いているというのは少ないようです。効果が続かかない理由は、カラスの般化能力にあります。般化とは、初めに条件づけされた刺激や条件以外の類似した別の刺激や条件においても、反応や学習効果を生じることです。要するに、似たような刺激に対しては慣れて、最初の効果が薄れることになります。カラスは我々人には見えない紫外線を認識できます。紫外線を認識の感度は、非常に高いものです。紫外線を遮断のゴミ袋に餌を入れ、実際にカラスに見せてどう反応するか実験しました。通常の半透明のゴミ袋と、紫外線を遮断の黄色いゴミ袋を並べ、餌を入れておくのです。実験の餌には、ドッグフードを使います。紫外線をカットしない単なるゴミ袋は、中身が丸見えになります。カラスの見える半透明の方はピンポイントで餌が突つつかれました。でも、ゴミ袋が紫外線を遮断する材質の場合、違った結果になりました。紫外線を遮断のゴミ袋の方は、めちゃくちゃに突かれてしまったのです。このように、いわゆるカラスの能力が、人間を苦しめる状況も生まれています。今回は、このカラスに対する人間側の効果的応戦について考えてみました。

 繁殖期にあたる5~7月に「カラスに攻撃された」という苦情も多くなるようです。ヒナが親と一緒に行動している時に、人が近くを通ると親ガラスはヒナが襲われると勘違いします。親ガラスはヒナを守るために、自分に注意を引くために威嚇の鳴き声鳴いたり、人間に接近したりします。このとき、人間側が棒で追い払うとか、石を投げるなどの行為をすると、次にその場を通るたびに執拗に威嚇されるようになるケースが増えます。人間側としては、巣やヒナを見かけた場合は迂回することが良いようです。襲われる危険性のある場合、傘をさすとか、両手を頭の上にあげて「バンザイ」のポーズなど、後頭部への攻撃を避ける守りの姿勢も必要になります。一方で、間違った対策をしている人も多いようです。カラスは、超音波が聞こえず、カプサイシンも感じにくい鳥です。にもかかわらず、超音波やカプサイシンを売りにした商品が、新聞広告などに乗ることがあります。間違いは、カラスは嗅覚が鈍いのに、嗅覚を刺激する忌避剤では効果がでません。カラスの行動様式や特徴を良く把握した上での忌避剤を開発してほしいものです。

 カラスの行動様式を調べた事業には、宇都宮大農学部の研究グループによる栃木、長野両県での行動調査があります。この調査に先立って、カラス延べ約370羽を栃木県真岡市と長野県飯田市で捕獲しました。370羽に全地球測位システム (GPS)を装着し、約220羽からデータを回収、分析したのです。調査にお金が必要ですが、この調査はカラスが関与していると思われる口蹄疫や鳥インフルエンザなどの防疫対策のために、2011年から行われました。調査によると、都心部と郊外のカラスは季節で行動を変化させていることが分かりました。都心部と郊外でカラスの性格の違いや餌の嗜好、好みなどに違いがありました。都心部のカラスは半径5キ口以内で生活しています。生ごみや残飯などの餌の量には限りがあり、群れの中で取り合うことも少なくありません。餌を貪欲に探し、1羽ごとの縄張り意識が強くなっています。一方、郊外に生息するカラスは、都心部のカラスより広範囲に活動しています。郊外では、生ごみ以外にも耕作放棄地などで餌が容易に手に入る環境があります。広いエリアで好物の餌がある農家や畜舎を探し出し、仲間同士で教え合っている可能性があります。いわゆる集団行動が見られます。季節による行動の特徴として、春は巣作りのために安定して餌を確保できる畜産農家の付近に多く集まるようです。秋には、ブドウや柿が実り、巣から30~60キロ離れた果樹園まで遠出もするようです。少なくなる冬は、畜舎などを餌場にするケースも増えます。ここに、鳥インフルエンザの感染が出てくるケースもあるようです。イソップ寓話に、田舎のネズミと町のネズミのお話しがあります。美味しいごちそうを食べて危険に生きるより、質素でも安全に暮らす方が幸せだというお話しですが、現在もカラスにも通じる教えのようです。

 都会のカラスの問題が、解決に向かっています。かつて社会問題化するほどいた東京都心部のカラスが、2025年には8割以上減っているのです。東京都によると、約40カ所の定点調査でも2001年度比で8割減となりました。調査では、1985年7千羽から2000年には2万羽まで急増しました。2025年には、カラスの数がピーク時の2000年と比べ84%減少しました。当時を知る、 50年以上都内で暮らす50代男性は「今は見なくなった」、「20年ほど前はごみをあさっているカラスがたくさんいて怖かったが、今は見ない」と話しています。東京都は、2001年にカラス対策のプロジェトチームを立ち上げました。ネットを利用するごみ集積所での工夫、そしてわなによるカラスの捕獲に取組みました。急増の原因は、大量の生ごみ廃棄が背景にあると判断したのです。この対策は、成功しました。カラスの急減した原因の生ごみの管理が徹底され、食べ物が減って繁殖がうまくいかない環境を作り出しました。数を減らすには、餌にアクセスさせないことが一番効果的でした。20年前には、カラスの苦情が山のように寄せられていました。でも現在は、都に寄せられる苦情や相談も93%も減少と大幅に減りました。都の環境局の担当者によると、現在の生息数については、急増する前の適正な水準に戻っているとのことでした。

 余談になりますが、カラスは頭の良い鳥になります。米国のワシントン大学には、カラスの能力の高さを実証した実験があります。この実験では、人間が数チームに分かれ、その人たちはチームごとに異なるお面をかぶります。各チームの中で、1人は「危険」を表すお面をかぶりました。チームごとに異なるお面をかぶってワシントン大学の構内をはじめシアトル近辺を歩いたのです。危険なお面をかぶった人は、数羽の野生のカラスを捕獲しました。この光景を見ていたアメリカガラスは、危険と思われる人物の情報を仲間に伝えたようです。この捕獲から9年後、お面をかぶった科学者が同じ場所に戻ってきたのです。当時の捕獲を見ていたカラスは、この人物を覚えていました。カラスは、危険を示すお面をかぶった人が脅威であるかのように反応したのです。さらに驚くべきことは、実際の捕獲現場を見なかったカラスも、お面をかぶった人が脅威であるかのように反応したことです。どのお面が危険かの情報を、ヒナもふくめてほかのカラスに教えたようでした。10年近い年月を経ても、危険な現場を見たカラスが覚えており、さらに生まれていなかったカラスも知っていた事実に、カラスの賢さが見られます。日本における郊外のカラスにも、このような賢い行動が見られるようです。カラスは人間をよく観察していて、人間社会からでるゴミや飼料を、季節単位でうまく利用する能力を発揮しています。人間の側も、この能力に応戦する知恵を発揮したいものです。

 最後になりますが、鳥類における生息数に変化が見られます。カラスの害は、郊外で増えていますが、その生息数は全体として減少していると言われています。生息数が変化するのは、カラスだけではありません。1990年代は東京都西部の郊外で多かったスズメが、2010年代は都市部の方が多くなり、分布が逆転しています。都心で増えているスズメですが、全国でみると近年は激減しているのです。スズメは、人間の住居の屋根瓦の隙間などに依存して繁殖してきました。そころが、人間の住居環境の変化などで繁殖場所がなくなっています。また、スズメの減少は、虫や雑草、営巣場所の減少などもその要因と考えられています。減っているのは、カラスやスズメだけではありません。環境省と日本自然保護協会の調査では、2005~2022年度で里地や里山にいる鳥類106種が急速に減っていることが分かりました。1960年比で約10分の1に減ったという報告もあります。鳥類106種のうち、ホトトギスなど15%が絶滅危倶種と判定されるペースで急速に減っている状況が生まれています。身近な鳥の変化は、私たちの暮らしにも影響を与える可能性があります。害虫のバッタなどの天敵である鳥が減ると、農業に悪影響が出ることになります。人間には害鳥でも、鳥の多様性は生態系の視点からは必要なことです。生態系のバランスの視点からも、鳥類の減少は防ぎたいものです。

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