変化する消費行動をビジネスチャンスにする知恵 アイデア広場 その1522

 少し前まで服装の世界では、「トレンド」「本物志向」などという言葉が脚光を浴びていました。これは、時代に敏感な自由を求める若者たちの感性によって、生み出された服装だったのでしょう。「本物志向」は重視されましたが、それが似合うかどうかはその方しだいのようです。似合う服というのは、人それぞれで、誰一人として同じにはなりません。ファッション雑誌は、ひところ鵜の目鷹の目と出てきました。これらの雑誌は数を増やしたのですが、読者層を細分化するという現象を引き起こしました。そのために、多様化が常態化しました。この状況において、東京コレクションとかパリコレクションの流行といった基準で服を選んでいては、本当に似合う服を見つけることはできなくなります。ファッション誌からそのまま抜け出てきたコーディネートだけでは、満足できない世の中になったようです。年齢や体型、好み、トレンドなど、素敵に見える服を選べる自己のスキルを磨く時代になったともいえます。いろいろな視点で取りいれたスキルで、自分自身人が楽しむ状況が生まれたようです。消費大国の中国においても、「トレンド」とか「本物志向」という段階から、より新しい段階に進んでいる状況が生まれつつあるようです。今回は、この新しい状況からビズネスチャンスの芽を育てることに挑戦してみました。

 買い物行動の形態が、時代とともに変化していくことが理解されます。かつては、百貨店、スーパー、ディスカウントショップ、コンビニなど、業態によって消費者を向か入れる役割が分かれていました。消費者は、毎日の食卓に並べる食料品をスーパーマーケットで買うのがー般的でした。そして、消費者はファッションや高級品などの非日常的な商品を百貨店で購入していました。でも、e―コマースやデジタル化の影響もあり、小売り業態の境界線があいまいになってきています。ディスカウントストアで食料品も高級化粧品も買えるし、コンビニで野菜も薬も買えます。もちろん、オンラインで買うことも普通になってきています。いろいろありますが、実際の購入の前の儀式があります。オンラインで買う方も、その前に実店舗での確認が、当たり前になりつつあるようです。興味深いことですが、その確認を楽しむ消費者も多いのです。小売業の側は、顧客の購入にとどまらないショッピングの楽しさの提供を考慮する必要も求められています。楽しく買い物できる売り場に加えて、店舗ごとに品ぞろえに特色を出し、集客を行う流れが出ていきました。顧客に選ばれるための小売りづくりをすることこそが、激動の時代を生き残るためのカギという専門家もいるようです。

 中国のお話しになります。中国では、景気の減速が続いています。景気が減速する中国では、外食チェーンなどで節約志向の高まりを意識したメニューが増えています。通販などでは大手ブランドには、安価な代替品を意味する「平替」を探し求める人が増えています。外食などでは、割安さを強調する「9.9元」(約210円)メニューが広がっています。スナツク菓子を格安で販売する企業は、人気になりました。この企業の店舗は、この1年で倍増の1万4000店にも急成長しています。中国国内の経済の優等生だった香港にも、変化が見られます。香港の小売売上高は、10月までの8カ月連続で前年同月を下回りました。香港の人達が、節約志向に流れているのです。その一つの現象として、日帰り可能な広東省深川市の米系会員制量販店「コストコ」では香港人の会員が増加しています。香港の人達が、物価の安い中国本土へ買い物や食事をしに行く「北上消費」が話題となっています。一方、生活に必要な物への節約の流れの中でも、ストレスの解消や癒しを求める「情緒消費」にお金を使う傾向もみられます。気分を盛り上げたり、自分を癒やしたりする消費には惜しまず出費する傾向もあるのです。

 近年の消費者行動研究では、消費者のウェルビーイング(幸福感)に注目が集まっています。利便性だけであれば、eコマースの方が時間的にも価格的に有利なことが多いはずです。でも、消費者の実際の購買行動を見ると、店舗だけあるいは、オンラインだけという人は少なくなります。「探索」や「興味」も、消費者の買い物において重要な要素になるわけです。特定のモノを買うというよりは、店舗を回って楽しむ時間に価値おく人たちもいるわけです。楽しんだ結果、モノを買うという行動に出るということになります。消費者は特定のモノやサーピスが欲しいのではなく、それを使って何かを成し遂げ、達成感や幸福感に浸りたいという欲求もあるようです。ショッピングにも、いろいろなパターンがあります。毎日の生活に必要な実用品を購入する「必要ショッピング」、娯楽目的の「エンタメショリビング」、癒しを目的とした「セラピーショッピング」、市場のトレンドや変化を知る「知的欲求ショッピング」などがあります。「エンタメショッピング」や「知的欲求ショッピング」は、体験が目的になる比重が高くなるようです。これらは、必ずしも購入が伴うとは限らないようです。でも、楽しさがあるということです。

 近年の消費行動の研究を元に、中国の消費行動を眺めてみました。そこには、就職難や景気減速で高まるストレスの解消や癒しを求める「情緒消費」にお金を使う傾向が見られました。中国の調査会社が、2024年に国内のコンソール(ゲーム専用機)関連市場が約44億元(約970億円)と前年比55%増加したと発表しました。この躍進は、中国発のソフト「黒神話 悟空」のヒットが主因だと述べています。中国では、スマートフォンで遊ぶモバイルゲームが主流でした。その中で、パソコンや家庭用ゲーム機向けとして開発された「黒神話 悟空」は異例の売り上になりました。このヒットは、さらなる派生効果を生み出しました。それは、黒神話の悟空の作品に登掲する場所を訪ねる「聖地巡礼」も盛んになったことです。10月の大型連休には、山西省の寺などに観光客が殺到したのです。山西省内にある主要観光地の訪間者数は、前年同期の大型連休と比べて47%増の延べ784万人にもなったそうです。このヒットの要因について、単身者の増加を受け、癒しを求める人が増えていると分析する専門家もいるようです。社会環境のプレッシャーの高まりを受け、癒しを求める若者が増えているのです。

 このお寺参りには、下地がありました。全人口の18%を占める中国のZ世代は消費行動の特徴は、節約志向が鮮明になりつつあります。この傾向は、旅行にも見られました。あるホームシェアリング運営会社では、Z世代利用者による「寺院」の検索数が急増していたのです。この寺院のサービスを歓迎するのは、高い環境意識や強い自己肯定感ある若い世代になります。高価なホテル利用に代わり、寺院滞在も低予算の選択肢として人気が高まっているのです。早朝の膜想(めいそう)体験も含めて、宿泊料は1泊わずか80元になります。春節期間中には、Z世代利用者による「寺院」の検索数が、過去の同シーズンに比べ24倍に急増したのです。ショッピングにも、いろいろなパターンがるように、癒しにもいくつかのパターンがあるようです。お金を掛けても癒しを求める人々もいる一方、お金を掛けずに癒しを求める人々がいるわけです。もちろん、毎日の生活に必要な実用品を購入する「必要ショッピング」には、節約の限度があります。でも、娯楽目的の「エンタメショリビング」、癒しを目的とした「セラピーショッピング」、市場のトレンドや変化を知る「知的欲求ショッピング」などは、お金を掛けなくとも、楽しさや達成感を得ることは可能のようです。今の中国の若者は、このような面で才能を発揮しているのかもしれません。スマホによる情報集能力は、彼らの才能の一端を示しているようです。この才能に食いつくビジネスも、開発されれば楽しいものになるかもしれません。

 最後になりますが、他社にないサービスやノウハウを持たなければ、長期低落傾向に陥ってしまいます。全員が目的や課題を認識し、その解決のためのアイデアを出すようになってくれれば、売上げが伸び、多くの純利益が出るお店になります。毎日の生活に必要な実用品を購入する「必要ショッピング」、娯楽目的の「エンタメショリビング」、癒しを目的とした「セラピーショッピング」、市場のトレンドや変化を知る「知的欲求ショッピング」などがあります。これからの企業は、これらの販売パターンに応じた自社の独自性を開発することが求められているようです。一つの事例が、若者のお寺参りになるかもしれません。悟空ゲームが爆発的人気で、ゲームソフトが売り上げを伸ばします。それから派生して、悟空が訪れるお寺参りが若者の人気になりました。そのお寺参りには、宿泊を伴う癒しが用意されています。さらに、そのお寺では格安の食事が用意されています。700万人が移動すれば、そこにいろいろなビジネスチャンスが生まれることでしょう。一方で、格安の旅行、一方で少し贅沢な旅行、そこには食事や移動に必要なお金が地元に落ちる経済効果が生まれます。ソフト1本で、このような経済効果が生まれることもあることに楽しさを感じます。

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