お菓子の消費拡大と健康向上の両立を狙う アイデア広場 その1798

 新生児の舌に砂糖水を垂らしてやると、嬉しそうな表情をします。新生児に苦味の物質を舐めさせれば、しかめ面をします。新生児の砂糖水の反応は学習ではなく、遺伝的にプログラムされたものであることを示しています。甘いものは、脳内のドーパミン報酬回路を刺激し幸せな気分にしてくれるものです。砂糖の多い食べ物は、脳の報酬回路を刺激するために、やみつきになるのです。遺伝にもとづくものを変えることは、なかなか難しいものがあります。経済が成熟している国々での課題は、肥満をいかに減らすかということになります。甘い菓子に際限なく手が伸びてしまう理由は、報酬回路を刺激することに起因しています。人間の本能に打ち勝つためには、人間の持つ知恵を総動員することが求められます。その総動員の対策が、各国で試みられているわけです。その国の1つに東南アジアのハブに成長したシンガポールがあります。この国の人びとの35%が肥満で、9%が糖尿病という報告をWHOが公表しています。生活習慣病による医療費の増加に歯止めをかけなければ、財政が立ちゆかなくなるとまでいわれているのです。WHOは、砂糖税が健康対策として良い選択肢だと提案しています。この提案を受け入れて、砂糖税を導入する動きがシンガポールをはじめ東南アジアの諸国で加速しています。

 一方で、人口が減少している日本では、菓子が成長市場となっています。日本ではお菓子の消費が史上最高になったというのです。2025年の市場規模が、過去最高となり4兆円を超えました。お菓子の市場では、初めて4兆円の大台を突破し、統計が残る2005年以降最高になったのです。全日本菓子協会によると、2025年の菓子小売金額は前年比6%増の4兆996億円になったというものです。もっとも、この最高には物価高や円安などの要因がありました。2025年の菓子生産量は、2024年から微減の約197万トンでした。生産量は減ったのですが、原材料高を背景にした商品の値上げ効果で市場は伸びたということです。金額ベースでは、少子高齢化と人口減が進む日本でも菓子市場は成長しています。また、この消費を助ける人たちが、3000万人を超えるインバウンドの人達です。訪日客の需要に加えて、物価高を背景にお菓子業界は順調のようです。

 アリスタフェアは、菓子専門商社の株式会社山星屋(ARISTA)が毎年開催している国内最大級の菓子総合展示・商談会になります。36回目となるこのお菓子フェアには、全国から約260社が参加して約6500品目もの菓子が並びました。会場は、史上最高の売り上げの影響もあり、菓子メーカーや小売店バイヤーらの熱気で満ちていました。その中で、目についた傾向が、食事の代替をねらったお菓子の提案が多く見られたことです。その一つが、グミでした。グミを含むあめ菓子の2025年の売金額は、2024年に比べて5%増の3309億円になります。2022年からは、31%増えて品目別の伸び率では1番になる商品になります。「朝グミ」は、「モチモチの食感で腹持ちも良い」グミで栄養を摂取する動きも広がる。グミを製造しているアトリオン製菓(長野県須坂市)は、新商品の「朝グミ」を8月に発売する準備を進めています。この「朝グミ」には、中鎖脂肪酸油やコラーゲンが配合されています。ちなみに、中鎖脂肪酸は一般的な油に比べ、約4倍の速さで消化・吸収され、すぐにエネルギーに変わります。これは、体脂肪として蓄積されにくいため、ダイエットや効率的なエネルギー補給に広く活用されています。また、コラーゲンは肌の弾力維持や関節・骨の維持に効果があります。グミの原料であるゼラチンは腹持ちがいいとされ、ちょっとした食事の代わりなるというピーアールを行っています。また、UHA味覚糖(味覚糖グループ)の「グミサプリ」シリーズは、商品ごとに鉄分やビタミンなどの成分に特徴があります。女性に人気の「鉄20日分・40粒」の購入金額は、3年で4倍に伸びています。グミだけでなく、ビスケットやせんべいも、存在感を増しているようです。ビスケットなどが、おにぎりの代わりとなるとのうたい文句です。食事の代替としても、お菓子が選ばれている流れが起きているようです。

 日本人は、栄養のバランスは、十分に取れているとみられていました。ところが、東京大学の研究グループによる調査では、驚く結果が出てきています。この研究グループは、2023年に1~79歳の計4450人から「習慣的な栄養素摂取量」の調査を行いました。社会予防疫学の研究グープが行ったこの調査で、日本人の栄養不足が明らかになったのです。季節差も考慮に入れた「習慣的な栄養素摂取量」の大規模調査は、日本では初めてのものでした。栄養が十分と思われていた日本人が、実は栄養不足に陥っている実態が明らかになってきたのです。タンパク質が目標量に届かない人の割合は、成人男性で高くなっていました。働き盛りの成人のタンパク摂取量不足が、18~79歳の2割以上を占めていました。ビタミンA、B1、 Cなどは、ほとんど必要とされる摂取量を下回っていたのです。鉄分は12~64歳の女性で、不足している人の割合が特に大きかった。さらに、食物繊維は18~49歳の男性と18~29歳の女性の6割以上が不足していました。カルシウムは、男女とも全ての年代で不足している人の割合が特に大きかったという結果でした。これらの結果を、お菓子業界の方たちが見逃すことはないでしょう。「鉄20日分・40粒」の購入金額は、3年で4倍に伸びています。たとえば、女性の鉄分の不足を補給する商品の開発とアピールは、企業にとって必要不可欠なものになるでしょう。鉄分以外にも、多くの要素の商品開発にビジネスチャンスが眠っているようです。

 日本人は、たんぱく質が足りないという調査結果でました。たんぱく質を十分に摂取しなければ、体を力強く動かす筋肉が不足します。最近は、筋肉が最大のホルモン(マイオカイン)生産の組織という認識ができつつあります。また、筋肉を効率的に作るためには、腸内細菌が不可欠という事実も明らかになってきました。最近の研究では、優れたスポーツ選手には特殊な腸内菌があることが分かりました。金メダルを取る選手は一般の人に比べ、1.5倍ほど多様な種類の菌を持っています。その腸内細菌の多さが、身体に良い働きをもたらしているようです。選手は、この事例の1つが、ボストンマラソンにありました。この大会に参加する選手の協力を得て、走る前と後で「便」を採取しました。この便からトップアスリートの腸内にすむ菌をマウスの腸に移植したところ、マウスの運動能力が高まるという現象が見られたのです。腸内細菌の本格的な医療応用が進んできたのは、ここ10年のことになります。最近、注目されている腸内細菌を意識した食事法です。色々な野菜を食べている人は、腸内細菌の種類が多く便通の良いことが分かっています。食物繊維は腸内細菌の餌となり、腸内細菌を増やして腸内環境を整える働きもします。彼・彼女が筋肉の減少に悩んでいる時に、食べやすい食べ物と早く筋肉をつける腸内細菌を意識した処方(運動、睡眠など)を提供すれば、ビジネスチャンスの芽がでてきます。

 余談ですが、ペットに、服を着せて散歩する愛犬家が増えています。以前は、イヌ小屋に入れていたものが、人間と同じ家の中で暮らすイヌが増えています。そして、食事も質の高いドッグフードが当たり前のように用意されるようになりました。結果として、イヌの寿命は、大幅に伸びています。課題は、人間と同じように、健康寿命になります。愛犬の健康寿命を延ばす仕組みが、いろいろな方面から提案されるようになりました。健康は、食事と運動のバランスから生まれます。まず、食事についてです。肥満の犬が増加しているため、減量用フードもいろいろ開発されています。減量フードの注意点は、低カロリーだけでなく、タンパク質を一定量含むものでなくければいけません。いわゆる、低カロリーバランス栄養という条件を満たすものが望ましいといえます。最近、栄養に配慮された商品30種類の中から自由な組合せで、宅配が可能というものがあります。愛犬が好んで食べてバランスが良いというものを、飼い主が見つけ出していく嗜好です。売り手の側も、30種類の中で、個々のペットにあった良い組合せの情報を提供することになります。相互のやり取りを通じて、より良い食品の開発が進みます。このような過程を通して、個々のペットに最適な食事や運動の仕方を処方箋として提供することも、これからのペットビジネスの選択肢になるかもしれません。

 最後になりますが、2024年は、国内のイヌとネコの飼育頭数(約1600万頭)が人の子ども数(約1400万人) より多い状況になりました。市場では、少子化や単身世帯の増加を背景にペットの家族化が進んでいます。ペットの家族化を大胆に取り入れる愛好家を対象にした商品の開発が、森永製菓から始まりました。ペットを家族の一員とみなす飼い主をターゲットに、人とイヌがー緒に食べられるおやつを開発したのです。おやつの時間に愛犬と食卓を囲んで分け合って食べる場面として提案しています。ペットの健康を人間と同じように考える人たちが増えれば、そこにビジネスチャンスが生まれます。事実、健康や栄養に配慮した高品質ペットフードやサプリメントの需要が伸びています。イヌやネコにも、人と同水準の食を求める価値観が広がっています。ユニ・チャームは、これまでにカルビーや森永製菓とペットフードを共同開発してきました。共同開発したコンセプトの商品群の売り上げは、過去5年で約4倍に伸びています。カルビーや森永製菓などが活躍する国内菓子市場は、人口減で大きな伸びが見込みにくい状況が生まれています。でも、1600万頭のペットの存在が、この状況を変えるかもしれません。

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