人口減少に備える賢い自治体  アイデア広場 その1799

 1974年に、厚生省の諮問機関である人口問題審議会は、「人口白書」で2010年に日本の人口がピークを迎えると公表しました。そして人口白書の予想した通り、2010年に日本の人口がピークを迎えました。もっとも、この白書は、多すぎる日本の人口を抑制しようという狙いがありました。それから15年後の2025年国勢調査では、日本の総人口が1億2304万9524人でした。日本の総人口は、5年前から309万6575人(2.5%)減ったことになります。309万6575人の減少幅は、過去最大になりました。人口減少が、各産業分野で人手不足を招いていることは周知のことです。現在は、1974年の白書の狙い通りになりました。でも、この人口減少に対して、この50年間どのような有効な対策が行われてきたかには疑問が残ります。国は1300兆円以上借金を抱え、地方自治体も200兆円の借金を抱えています。先進的自治体では、インフラや行政サービスを賢く縮小するなど、人口減少を前提にした対策が行われるようになりつつあります。このような対策は、日本だけでなく、世界各地にみられます。今回は、人口減少を前提にした地域の開発や豊かさの追求を試みてみました。

 1つは、1990年の東西ドイツ統一後に、人口が流出した旧東ドイツのヴォルビス市の復興事例になります。ヴォルビス市は、旧東独時代に綿紡績工場などができて最大1万7千人ほどに増えました。ところが、西ドイツの工業力の勢いに負けて、東西ドイツ統一後は数千人にまで人口が急減します。日本にたとえれば、限界集落の様相を示していたわけです。この市は地域人口流出経験しましたが、「健全な縮小」で再生しました。町はにぎわいを取り戻し2007年には、住宅建築での国際賞も受賞しています。このモデルには、いくつかの工夫が見られます。集合住宅は取り壊すのではなく、階数を減らす減築などで活用しました。鉄道駅の周辺には社会主義時代の「プレハブ」団地とモダンに改築された住居が共存しています。さらに、用途別に区分し直し、不用エリアはオープンスペースとして整備したのです。当時市長は、「生活の質向上」を意識したと述べています。もう一つは、お隣の韓国の釜山市になります。釜山は、韓国第2の都市で、ビーチ沿いには高級木ホテルや高層マンションが立ち並ぶ国際観光都市になります。釜山市の人口は1990年代の380万人がピークで現在は330万人に減りました。本社を置く有力企業も少なく、地元の学生も就職ではソウルに多く向うことになりました。 韓国政府は2024年、釜山市を「消滅の危険」がある地域に指定したのです。韓国は、国全体でも合計特殊出生率人の女性が生涯産む子どもの数が世界最低水準の国です。釜山市の行政幹部も、人口減で消滅危機にひんしており、現実的に人口を増やすことは難しいと考えています。釜山市の人口政策チームは、人口減を前提に都市計画進めています。そのモデル事業が、「15分都市釜山」です。これは釜山市を約60の圏域に分け、生活に必要な機能を徒歩などで15分以内に収める事業です。子育てや高齢者支援などサービスごとに、中核拠点を設け機能を集約します。閉鎖した保育園などは、高齢者など向けの弁当製造や配送拠点に変えています。釜山大学均衡発展研究センター長は、「釜山で成功すれば15分都市は広がっていく」と話しています。

 日本の実情も、厳しいものがあります。都道府県別で人口が増えたのは、東京と沖縄の2都県のみで、45道府県が減少しています。首都圏の千葉県と埼玉県は1920年の調査開始以来、初めて減少しました。戦時中の疎開で人口減少した神奈川と愛知は、戦後初のマイナスになりました。都道府県庁の所在地では、47うち仙台や福岡を除く40市が減少しています。地方の政令市などは、多くの若者や働き手を集め、地方の経済・文化の振興を担ってきました。その推進役を担ってきた政令市や県庁所在地の人口減少が、明らかになりつつあるのです。地方の中核都市が、大都市が首都圏などへの人口流出を防ぐダムの役割を果たせなくなりつつあります。市町村の視点から見ていくと、全国の1719自治体のうち増加した市町村161市町村にとどまりました。9割の市町村が、人口を減少させているのです。さらに、ミクロの視点から世帯を見ていくと、1世帯あたりの人数は2.15人で2020年の2.26人を下回っています。都道府県別では東京の1.88人が最も少なく、最多は山形の2.49人でした。東京は人口が多い反面、高齢者の単身世帯の増加していることが分かる数字になります。

 人口の減少が引き金になり、財政が悪化する自治体も増えています。その中には、人口減少を直視せずに、インフラの増強や過剰なサービスを行っている自治体もありました。ここに来て、財政悪化から、政策転換を行なう自治体も出てきました。そんな自治体の1つに、神奈川県相模原市があります。相模原市は、人口が72.5万人の政令指定都市になります。この相模原市は、財政の急速な悪化に見舞われていました。そのために、持続可能な財政を実現するための思い切った改革プランを実施しました。まず、既存の公共施設を徹底的に見直をしました。市の27施設について、廃止や民間移管を行いました。1991年開設で、五輪選手らを輩出した市営アイススケート場も、2027年3月末に廃止する方針を立てました。スケート場の維持費に年間1億5000万円かかり、改修には10億円規模の支出が必要になります。その費用の工面が、できないのです。さらに、相模原市は、各種団体への補助金も66件を見直してきました。敬老祝金の廃止など、助成の縮小や見直しなども行いました。見直しだけでなく、相模原市は、2020年度当初予算で新規事業を原則「凍結」しました。2021年度もほとんど新規事業を実施しない緊縮型の予算編成をおこなったのです。財政危機を前に、徹底した歳出の見直しを進めてきたわけです。もっとも、歳出の削減だけでは、市民へのサービスは低下します。限られた財政の中で、民間の力を利用しつつ街の魅力を高める施策を打ち出すことも行いました。この改革プランを実行する中で、2022年度末には急回復をしています。

 財政悪化を阻止するだけでは、物足りません。地域の資産価値を上げて、地域を住みやすい場所にすることも楽しいものです。日本にも、このように資産価値を高めて、住みやすい地域の実現に奮闘しているとこともあります。高松市の丸亀商店街は、資産価値を高めることに成功しています。この町の商店街振興組合が定期借地権を活用し、土地の所有と利用を分離した商売を行う仕組みをつくりました。この借地権を活用し、土地の所有と利用を分離する方式は地権者がリスクを負う仕組みになります。丸亀地区の地権者は、リスクを覚悟でこの案に乗ったのです。店を営業している人達は、消費者のニーズを捉えながら、商売に徹して稼いでいます。これらのお店の工夫に吸い寄せられるように、若者が多く集まり、そこから地域の活性化が始まっています。地権者は土地を組合に出資し、商業の活性化を促し、地代としての利益を得ているのです。丸亀地区は、高齢者にとって、良い場所になっています。入居の大きな理由は、医療介護施設の完備にあります。高齢者にとって大きな家は、必要ありません。1LDKのマンションで十分です。マンションの1階に診療所があれば、通院の心配ありません。診療所と高度医療機関との連携も円滑に行われています。医療が充実し、住むところが商業施設として整備され、若者がいる地域は、高齢者にとって住みやすい場所になります。丸亀地区の売上げは、開発前の3倍以上になり、買い物客は1.5倍以上に増加しています。建物の固定資産税の評価額は、400万円から3600万円になり、税収を大きく増やしました。

 余談になりますが、建物に価値を付加する流れは、米国から始まっています。WELL認証(WELL Building Standard)は、米国で始まった国際的な評価基準になります。このWELL認証は、環境性能に加えてウェルビーイングの観点から建物を評価するものです。米国には、建物や地域の資産を増やそうとする投資の志向があります。米国の不動産オーナーは、積極的に地域に投資をするケースがあります。それは、自分の不動産価値を高めるために行っています。不動産オーナーは、より優良なテナントに入ってもらい、そこで稼げるショップを運営してもらいたいと考えています。テナントが利益を上げることは、その店とその店の周りの資産価値が上がることに繋がります。多くのテナントに「借りたい」と思ってもらうために、建物と地域の両方の価値を上げるために投資をするわけです。こんな試みの日本版が、丸亀地区になるようです。このような試みが、秋田県秋田市でも行われています。秋田駅前は、再開発されています。そんな中で、高齢者向け住宅やクリニックなどで構成される複合マンションが造られるそうです。秋田駅から徒歩4分という立地条件は、魅力あるものです。この分譲マンションは、地上17階、地下1階で、150人の住民が住む予定です。1~2階は北都銀と秋田信金の支店や調剤薬秋局、そして交流スペースが入り、3~4階には内科、歯科、訪問介護ステーションや美容サロンなどのテナントが入ることになるようです。医療面や金融面での心配はなくなります。高齢者にとっては、安心できる建物ということになります。もう一つは、商業施設など身近あり、生活の充実という点が楽しみを増やすかもしれません。

 最後は、これから進む日本の人口が毎年100万人ずつ減少することへの対処方法になります。次回30年の国勢調査で、総人口は1億1000万人台になることは確実のようです。地方も東京も、人口減少する時代になりつつあります。人口が減る前提で地域の未来を考えれば、結論は選択と集中になります。人口減少に直面している世界の裕福な国を見れば、人の数を追わずに、人々の豊かさの実現を追求しています。数を追わずに、価値を追求することが1つのヒントになるようです。市町村の再開発のコンセプトに、健全な都市の縮小を取り入れることを、前向きに取り入れる知恵が求められるようです。

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